研究課題/領域番号 |
19K00060
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山畑 倫志 北海道大学, 高等教育推進機構, 講師 (00528234)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ジャイナ教文学 / 尊像崇拝 / 聖者伝文学 / バクティ / ラーマ / クリシュナ / 古グジャラート語 / 聖地信仰 |
研究実績の概要 |
2020年度はジャイナ教の尊像崇拝儀礼とジャイナ教聖者伝説話の関係、ジャイナ教聖者伝の内容変化とジャイナ教団の関係についての研究成果を出した。 まず、ジャイナ教で行われる尊像崇拝儀礼だが、これは寺院内に設置された祖師などの像を対象として行われる儀礼である。特にこの儀礼の対象となる像は24祖師の中でもリシャバやネーミ、パールシュヴァといった一部の祖師の像が多くを占める。このような尊像崇拝がジャイナ教の成立当初から存在していたのか、あるいは外部の宗教伝統から導入されたのかについては未だ判然とはしていない。ただ、文献上は5-7世紀頃まで遡ることが可能である. 一方、ジャイナ教の聖者伝文学も同じように祖師などの聖者たちを主題とするため、その歴史的な展開は尊像崇拝儀礼の変化と一定程度対応していることが想定される。そこで、複数の聖者伝文学を検討した結果、尊像崇拝の儀礼を前提とした記述は初期ジャイナ教聖典から8-12世紀の聖者伝文学にも見られるが、尊像崇拝の具体的な記述が見られるのは聖地称揚文学の流行する14世紀ごろからであることがわかった。そのため、尊像崇拝儀礼は古い時代から実施されてきたが、聖地巡礼の流行と同時期にジャイナ教の重要な儀礼として再定義されたと推測することができる。 次に聖者伝とジャイナ教団の関係についての研究成果である。この成果は前年度までのラーマおよびクリシュナの聖者伝における位置づけの変化の研究、およびジャイナ教団の変化の研究をとりまとめたものである。ここでは北インドのグジャラート地域に着目し、ギルナール山をはじめとした主要な聖地が信仰対象として発展する過程と、政治状況の移り変わりによって、ジャイナ教団が変化したこと、そしてジャイナ教文学が長大な聖者伝文学から、様々なテーマを扱い、形式は歌謡に近いラーソー文学などに変化したことのそれぞれの間に関連があることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究成果に関しては尊像崇拝儀礼と聖者伝説話、およびジャイナ教団と聖者伝説話について予定していたとおり成果を出すことができた。しかし、感染症流行のため昨年度から今年度に延期していたインド・グジャラート地域での写本調査に関しては、情勢が改善しないため、渡航および現地調査が不可能となり、実施することができなかった。 研究成果の発表については滞りなく進捗しているが、予定していた調査ができない状況を加味すると、進捗状況はやや遅れているとみなすのが適当である。
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今後の研究の推進方策 |
2019-2020年度にかけては、聖者伝文学中の聖者の位置づけの変容について検討し、それと並行する尊像崇拝の儀礼への言及についても調査した。今後の研究はそれらを踏まえ、ジャイナ教の様々な変化が生じる時期に12世紀にグジャラートで活動したジナダッタと、17世紀のグジャラートでバクティ信仰の影響のもと著作を残したヤショーヴィジャヤとアーナンドガンの諸著作を検討する予定である。 まず、12世紀のジャイナ僧であり、ジャイナ教団カラタラ・ガッチャの指導者であったジナダッタの著作と伝記を題材として、当時のジャイナ教主流派とは距離をおくガッチャの活動方針が、12世紀以降のジャイナ教文学の大きな変化と接続していることを明らかにする。特に聖地文学と実在の人物を題材とした伝記文学への影響に着目する。 ガッチャとは8世紀頃から現れたジャイナ教の教団組織であり、特に10世紀から13世紀頃の北インド西部において多くのガッチャが組織された。ジナダッタは自身の著作を残したガッチャ指導者としては最初期の人物である。今後の研究では、ジナダッタが「正しい」ジャイナ教団をどのように考えていたかを著作から抽出し、さらにガッチャ指導者の伝記から読み取れるジナダッタの実際の活動と合わせて、変化期におけるジャイナ教団の様相を明らかにする。 そして、ジャイナ教とバクティの関係の研究として17世紀グジャラートのヤショーヴィジャヤとその弟子アーナンドガンの著作に見られるバクティ信仰をとりあげ、ジナダッタと時期の近い12世紀のヘーマチャンドラの著作から取り出せるバクティへの言及と比較し、12世紀から17世紀にかけて両者の差異が発生した経緯について分析する。 また、前々年度および前年度、感染症の影響で実施できなかった現地におけるジャイナ教説話写本の調査であるが、調査地の感染状況を鑑み、調査が可能となった段階で実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初2020年3月に予定していたインドにおける写本調査が感染症流行のため不可能となり、2020年度に実行する計画を立てていたが、2020年度中に現地調査が可能な状況にはならなかった。そのため、調査費用、および現地における書籍購入に用いることを予定していた額が次年度使用額となった。 また、2021年1月に予定していた国際学会も次年度に延期されたため、その費用も次年度使用額となった。 次年度となる2021年度中に調査および国際学会の実施が可能な情勢となれば、それらの費用として用いる予定である。
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