研究課題/領域番号 |
19K00060
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山畑 倫志 北海道大学, 高等教育推進機構, 講師 (00528234)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジャイナ教 / ガッチャ / アーナンドガン / ジナダッタ / 聖者伝 / バクティ / アパブランシャ語文学 / ラージャスターン語文学 |
研究実績の概要 |
今年度は、ジャイナ教団内の組織であるガッチャとジャイナ教文学の変化の間にどのような関係があるのかについて、創立が相次いだ9-12世紀と、ガッチャの立場を離れた出家者アーナンドガンが現れる17世紀の2つの時期を対象として研究を進めた。
まず、12世紀のジャイナ教の出家者であり、カラタラ・ガッチャの指導者であったジナダッタの著作と、12世紀以降のジャイナ教文学の変遷との関係を考察した。カラタラ・ガッチャの出家者たちは、当時の都市部寺院の出家者たちが聖典に基づいた生活をしていないことを非難しており、ジナダッタは、ジャイナ教徒としての正しい在り方を示すために、『ウパデーシャ・ラサーヤナ・ラーサ』などの著作を、当時ジャイナ教文学に用いられていたアパブランシャ語で書いた。だが、ジナダッタの作品は、聖者伝を主流とするジャイナ教のアパブランシャ語文学の伝統から見ると異質である。そこで今年度の研究では、ジナダッタの著作は、それまでの文学的伝統とはあまり関連がない一方、12世紀以降の文学動向と関係が強いことを指摘した。 次に、17世紀のジャイナ教出家者であるアーナンドガンの活動とジャイナ教聖者伝文学について取り上げた。ジャイナ教白衣派の歴史の中でのアーナンドガンの位置づけを考えると、アーナンドガンが活躍したのは変化が比較的大きい時期にあたる。白衣派はそれまで、①北インド西部に拠点を移し、クリシュナ・ラーマ信仰を取りこむ時期(紀元前1ー9世紀)、②従来の教団に対する改革運動の中で、複数のガッチャに再編され、聖地信仰が盛んとなった時期(10ー13世紀)に変化を経験しているが、この時期は③聖像崇拝拒否やバクティ信仰などがジャイナ教内で問題化する時期(15-17世紀)にあたる。このような時代背景を踏まえた上で、アーナンドガンの著作が聖者伝の伝統から見てどのような特徴があるのかについて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究成果に関しては尊像崇拝儀礼と聖者伝説話、およびジャイナ教団と聖者伝説話について予定していたとおり成果を出すことができた。しかし、感染症流行のため一昨年度およっび昨年度から今年度に延期していたインド・グジャラート地域での写本調査に関しては、情勢が改善しないため、渡航および現地調査が不可能となり、実施することができなかった。 また、研究成果の発表についてはおおむね滞りなく進捗しているが、対面で実施予定の国際学会が開催延期となった。以上、予定していた調査ができない状況や十全な成果発表が困難な状況を加味すると、進捗状況はやや遅れているとみなすのが適当である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、ジャイナ教団内組織のガッチャと聖者伝文学の関係について、12世紀のジナダッタと17世紀のアーナンドガンの2人の人物を聖者伝文学中の聖者の位置づけの変容について検討し、それと並行する尊像崇拝の儀礼への言及についても調査した。 次年度では研究は前年度までの研究を踏まえ、聖者伝文学の対象が変化する12世紀から13世紀に書かれた作品を主な研究対象とする。3世紀から12世紀にかけて聖者伝文学の中心であったチャリタ文学では、ジャイナ教の聖者である祖師や転輪聖王、そしてラーマ説話やクリシュナ説話の登場人物を63人のジャイナ教の偉人としてまとめるようになった。主にサンスクリット語やプラークリット諸語、アパブランシャ語といった古典語で書かれたチャリタ文学はこの63偉人伝を基本的な型とする。一方、ジャイナ教で取り上げられる聖者には63偉人に含まれない者もいる。兄である転輪聖王バラタを戦闘で圧倒するバーフバリンや裕福な商人であるシャーリバドラはその代表的な人物である。どちらの人物も最終的にはジャイナ教徒として出家することとなる。 チャリタ文学よりも後代に流行したラーソー文学は、特に14世紀から16世紀にかけての王族の英雄譚の様式として有名である。しかし、12世紀頃より確認できる初期のラーソ文学は、まずジャイナ教徒によって古グジャラート語を用いた作品が著された。ジャイナ教のラーソでは聖者や聖地が主題として取り上げられる。特にバーフバリンとシャーリハドラはラーソー作品にしばしば登場する。 次年度は、12世紀から13世紀のチャリタ文学と初期ラーソー文学に登場するバーフバリンとシャーリバドラという特徴的な人物の分析を通して、バクティなどの新たな信仰運動が聖者伝文学の変化に影響を与えたかについて検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究ではインドにおける写本調査や国際学会での発表を予定していたが、新型コロナウイルス感染症対策のため、国外での研究活動が困難となり、また国際学会も延期されてしまった。 次年度においては可能な限り現地調査を行って研究を進めるとともに、延期されていた国際学会に参加して成果発表を行う予定である。
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