研究課題/領域番号 |
19K00142
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
大地 宏子 中部大学, 現代教育学部, 准教授 (80413160)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 弘田龍太郎 / ルンビニー合唱団 / パドマ合唱団 / 仏教音楽協会 / 日本仏教童謡協会 |
研究実績の概要 |
2022年度におこなった調査は次の二点である。第一に、弘田龍太郎の仏教音楽作品に焦点を当て、未出版の自筆譜も含め相当数の作品を整理するとともに、これらの作品がどのような特徴をもち、彼の作品群においてどのように位置づけられるのか明らかにした。弘田が仏教作品を集中的に作曲していた大正末から昭和10年代頃、「仏教音楽協会」と「日本仏教童謡協会」が相次いで創設され、新しい仏教音楽の創出をめざした仏教界は洋楽受容の興隆期にあった。弘田は両協会に関わりながら、ルンビニー合唱団とパドマ合唱団の指揮にあたり、自身の新仏教音楽作品を次々に発表した。すなわち弘田の創作人生の中での仏教音楽作品は、およそ次のように位置づけられる。幼児や子どもを対象にした単旋律による童謡から出発した彼は、やがてルンビニー合唱団を想定した、青少年を対象とする二部~四部による多声部の合唱作品を書くようになり、そしてドイツ留学を経て、パドマ合唱団におけるヨナ抜き音階から脱却した壮大なオペラ作品「仏陀三部曲」の構想へと至るのである。弘田の最も充実した創作期に書かれた仏教音楽作品は、弘田の創作の全貌を明らかにするうえで非常に重要であり、今後のさらなる研究が必要であろう。 第二に、弘田の出身校三重県立第一中学校(現三重県立津高等学校)在学中の『校友會雑誌』より、弘田の高校時における音楽活動を辿った。在籍当時より独唱、合奏、作曲などの活発な音楽活動に加え、当雑誌にいくつかの論稿も寄稿していた。その一つ、「邦楽論」ではとりわけ三味線の奏法を詳述しつつその楽器の利点を力説していることから、後に東京音楽学校邦楽調査掛の調査員として従事していた弘田は、すでに邦楽についての高い専門知識を有していたことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究課題であった仏教音楽についてはおおむね研究は遂行できたが、舞踊家らとの交流についての調査は再度次年度の積み残し課題となった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究計画で積み残した課題として、花柳寿輔や石井漠ら交流のあった舞踊家との関わりとその作品群を整理する。また、ベルリン留学期における作曲とピアノ奏法の研究の詳細を明らかにし、留学後の音楽様式の変遷を辿る。ベルリン留学後はパドマ合唱団におけるオペラ創作を頂点に、以後はラジオ放送への出演を通して子どもに向けた音楽教育に軸足を移していくため、NHK放送博物館所蔵の戦前の番組表に基づき弘田が出演したラジオ放送および内容の再整理もおこなう。 研究最終年度となる今年度は、これまでの調査によって明らかにした邦楽取調掛に従事する傍ら新日本音楽運動にも関わっていた第一期、北原白秋との交流から童謡の作曲を開始し、新教育運動にも参加するようになった第二期、ベルリン留学以後のラジオ放送などにおける啓蒙活動が増える第三期、戦後の第四期における音楽様式を、弘田の思想的背景となった社会的文化的文脈と接合することで、本研究の完結をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
弘田のベルリン留学についての海外渡航調査を予定していたが、一昨年に引き続き昨年度も新型コロナによりそれが叶わず、出張旅費を繰越すこととなったため。最終年度である今年度はコロナによる規制も緩和されつつあるため、海外調査を実行する予定である。
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