研究課題/領域番号 |
19K00420
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
永尾 悟 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (80389519)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アフリカ系アメリカ文学 / 白人性(ホワイトネス) / ホワイトライフ小説 / Frank Yerby / James Baldwin |
研究実績の概要 |
本研究は、アフリカ系アメリカ人作家による白人主人公の小説、いわゆる「ホワイトライフ小説」について、20世紀転換期の先駆的作品の流れを踏まえながら、隆盛期とされる第二次世界大戦後の作品を読み解き、同時代の人種言説との呼応性と文学的伝統との交差性を探るものである。その際、当時の雑誌や文学研究書などを紐解き、この時代におけるアフリカ系アメリカ文学をめぐる批評的意識とホワイトライフ小説への評価を検証する。 2019年度は、アフリカ系アメリカ人として初めてミリオンセラー作家となったFrank Yerbyの長編小説The Foxes of Harrowにおける南部白人大農園主の主人公の人種意識について考察した。黒人抗議文学の伝統を踏襲したリアリズム的作品に取り組んでいた Yerbyが、南部大農園を舞台にした歴史ロマンスを執筆した意義を考察し、アイルランド系移民の主人公が土地と奴隷の所有により南部大農園主になるというこの物語が、所有の特権と結びつく白人性の構築性を暴き出す点を、書簡、創作ノート、タイプ原稿をもとに明らかにした。さらに、作品執筆から出版までの経緯について、Yerbyと編集者やエージェントたちとのやりとりをもとに調査を行い、当時の出版業界におけるアフリカ系アメリカ人作家の位置づけについて考察し、付与されたイメージに対して作家側がいかに対峙したのかを論じた。本研究を英語でまとめた論文は、2019年度末出版の学会誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年3月に予定していたアメリカでの研究調査について、COVID-19の感染拡大に伴う渡航制限によって中止せざるを得ず、作家たちの作品執筆の動機を裏付ける資料が入手できなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の計画としては、ホワイトライフ小説隆盛期である第二次大戦後に出版された作品(James Baldwinを中心に)に関する研究、そして、20世紀初頭の先駆的作品(Charles Chesnuttを中心に)についての研究を行う。 James Baldwinについては、彼が小説デビュー以前に複数の作品の草稿に同時進行で取り組んでいたことから、草稿の中にホワイトライフ小説の萌芽を読み取ることを目的としている。特にGoivanni's RoomとAnother Countryは、Go Tell It on the Mountain以前からBaldwinが書き進めていたものであり、少しずつ独立した作品に発展していった。この過程をたどりながら、Baldwinがアメリカとヨーロッパを舞台とした両作品を通して、アメリカ白人性をいかに表象しようとしたのかを考察する。 Charles Chesnuttについては、1905年に発表したThe Colonel's Dreamについて、アメリカ南部の人種主義とたたかう白人主人公を描いた意義を、同時代の黒人知識人との書簡などを手がかりにして明らかにする。 Baldwinについては2020年度中の論文執筆を目指し、Chesnuttについては翌年度の論文執筆のための準備を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度末に予定していたアメリカでの研究調査が、COVID-19感染拡大に伴う渡航制限によって実施できなかったため、旅費に大幅な残額が生じた。また、年度末に海外から取り寄せ予定であった研究書や資料について、発送元や出版元の事情により年度内に入することができなかった。 研究調査については、渡航の安全が保証されて受け入れ体制が整い次第実施する予定である。また、入手予定であった研究書や資料については、2020年度始めにはすべて手元に届く見込みである。
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