1990年代はロシアの社会的混乱期にあたり、ロシア人研究者は財政的理由などによりフィールド調査を実施するのが困難な時期であった。本研究が基盤とする上トイマ地区のフォークロア調査はまさにこの時期に始まっている。こうしたことから、これらの成果はロシア人研究者にとっても抜けた時代の穴を埋める重要な学術的情報を含んでいるといえる。 また、本研究が目指すフォークロア資料の整理・保管・提示の形態は、組織主導の大規模な方法とは一線を画し、個人情報やインフォーマントの権利に十分配慮しつつ、利用者に丁寧な情報提供を行うという点で極めて日本的な細やかさを備えている。こうした点も独自の成果として指摘できよう。
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