研究課題/領域番号 |
19K00520
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福田 義昭 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (60390720)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アラブ / 近代文学 / 地理的想像力 / 空間表象 / 世界観 / アイデンティティ |
研究実績の概要 |
本研究は、近代アラブ世界の文学作品等が「地理的世界」をいかに表象してきたか、その概要を把握することを目的としている。文学作品をはじめとする多様な文化的テクストを題材に、さまざまな地理的概念・政治空間などがどのように認識され、表象されてきたかを分析する。それによって、近代アラブ人の「世界」観の変遷や空間的アイデンティティの変容を解明するための手がかりを得たいと考えている。 3年目にあたる2021年度は、以下のような研究を行った。 (1)引き続き、アラブ諸国の国歌に関する研究を進めた。具体的には、各国歌の歌詞の内容、使用言語に加え、作詞者と作曲者、替え歌を含む拡散、歌唱実践等に関する資料を収集すると同時に、それらの分析を行った。とりわけ、「近代国民国家の象徴」である国歌が、アラブ世界において、いかに国境を越える性格を有しているかに注目し、それをナショナル・アイデンティティの重層性という観点から検討するとともに、国歌とイスラムの関係についても考察した(論文としての成果は次年度)。 (2)イラク人作家フアード・アル=タカルリー(1927―2008)の短篇小説「パン焼き窯」(1973)の翻訳・解説を行った(刊行済み)。同作品は、定住民化した「ベドウィン(遊牧民)・アラブ」の自意識が織り込まれている点で本研究の一資料となる。 (3)エジプトのアレクサンドリアを舞台とする作品の分析を進めた。とくにイブラーヒーム・アブド・アル=マギード(1946―)の『アレクサンドリアでは誰も眠らない』(1996)を対象として、「カイロ/アレクサンドリア」「下エジプト/上エジプト(“ファッラーハ”/“サイーディー”)」「都市/農村」「都市/砂漠(定住民/ベドウィン)」「ムスリム/キリスト教徒」等の二項対立や、第二次世界大戦下におけるエジプト人の世界認識を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の流行により、予定していた現地調査や資料収集がいまだに行えていない。また本研究では、かなり多様なサブ・テーマを設定しているが、国歌など、扱うべきテクストの範囲が当初の予定より増えたため、分析に時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
上記事情にかんがみ、今後は当初の予定より分野を少し狭めることも検討している。とりあえず本年度からは、アラブ諸国の国歌やエジプト小説の研究を継続する一方で、文学者や思想家らの文明論や旅行記、文学作品などをもとに、近代アラブの「西洋/東洋」観等の研究に着手する予定である。海外渡航が可能になった場合は、これまで実施できなかった分も含め、アラブでの調査および資料収集を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度同様、海外調査が新型コロナウイルス感染症の流行により取りやめとなったため。今後、海外渡航が可能な状況になれば、その分を海外での調査に充てたい。
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