研究実績の概要 |
令和4年度は、前年度に引き続き、日英語の略語形成についての研究を音韻的な面に注目しながら行った。英語の普通名詞の略語は、例えば、pamphlet → pamphのように最初の1音節を取り出すか、'infor'mation → infoのように、1語の中に複数の強勢(stress)がある語――強勢のある音節の前に'を付した――が元になっている場合には、強勢のある音節とない音節を組み合わせた2音節分を取り出すことが多い。なお、英語の韻律論では、強勢のある音節とない音節が組み合わさった単位はフット(foot)と呼ばれるので、infoのような略語は、1つのフットを取り出した例と見なすことができる。そして、いわゆる愛称(すなわちニックネーム)の形成も一種の略語形成であるが、英語の愛称の形成は、普通名詞の略語形成と同じ方式に則っていることがわかる。例えば、Michaelのように1箇所にしか強勢がない名前の愛称では、Mick, Mikeのように1音節が取り出されるが、'Alex'anderのように複数の強勢を持つ名前の場合には、そこから強勢音節と無強勢音節の2音節分(すなわち1フット)を取り出したAlec(k), Alexなどが愛称となる。一方、日本語の愛称は、例えば「恵(めぐみ) → メグちゃん」のように、元となる名前から2モーラ(=2拍)を取り出すことが圧倒的に多い。日本語は、英語のような強勢アクセントの言語ではないので、フットを強勢に基づいて定義できないが、日本語音韻論においては、「1フットは2モーラから成る」ということが広く認められている。したがって、日英語の略語・愛称形成を比較すると、日本語では、英語のpamphやMickのように子音で終わる1音節略語を用いることができないという違いがあるが、「1つのフットを略語の単位として用いることが多い」という共通性があることを指摘できた。
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