研究最終年度には、前年度までに得られた研究結果を講演や学術誌、書籍への寄稿を通して公開した。当初の構想にしたがい、それらのいくつかでは研究者以外の読者を対象として、言語教育に関わる実践上の課題の分析や指導方法論に対する検討や提案を行っている。具体的には、還元主義的で積み上げ的な言語学習観を乗り越え、知識要素の相互作用と自己組織化、創発を視野に入れた指導プログラムを提供する必要があることを強調した。さらにそれらと並行して、研究期間中に収集したデータの再分析も視野に入れ、今回の成果を今後の研究に結びつけるために学習のモデリングや発展的なデータ分析方法への習熟を図った。研究期間全体としては、メタファー、メトニミー展開を主な動因とする多義語の語義メットワークの構築を行い、新たな入力情報を引き金とする知識拡張に関する本研究の仮説を裏づけるデータを得ることができた。その結果は複雑系の一般的な性格との関連で、また第二言語発達における他の知識拡張に関する研究結果と合わせて議論し、さまざまな媒体で発表してきた。その一方で、感染症の拡大による制約から計画どおりに実験を実施することができなくなったため、類義語の境界の変動に関する実証的な議論は十分に行うことができなかった。しかしながら、その間にそれぞれが多義語である一組の類義語を包括的に扱い、語義ネットワークを構築するための新たな方法論と分析手法の構想に至り、将来的に研究をいっそう発展させるための緒を掴むことができた。
|