2023年度は12月に巽由樹子訳・解説『ミコラ・サモーキシュ「ウクライナの装飾文様」』(東京外国語大学出版会)を出版した。これは19世紀-20世紀初頭のウクライナ出身でロシア帝国の御用画家だった人物の古刺繍スケッチ集を復刊したものだが、近代化の時代の博物館における保存と展示の思想と、現在のウクライナ侵攻下での民族文化の象徴化という文化的ナショナリズムに関わる刊行物であり、巻末の解説でこうした背景について考察した。こうした内容を、1月には「連続市民講座:世界を学ぶ、世界を生きる」(東京外国語大学X読売新聞立川支局 共催企画)で「ウクライナの装飾文様―美術とナショナリズムの関係の今昔」と題した講演を行い、一般向けに研究成果を還元した。 3月には論考「帝政期ロシアの出版ジャーナリズム―担い手とその特質について」『EAA Booklet 34/EAA Forum 24 出版・報道文化の近代化1―「人」から読み解く』が刊行された。同月には、日本史研究者とのワークショップで「国際商業のなかのロシア語出版」と題した報告を行った。研究期間を通じて、コロナ禍とウクライナ戦争によるロシア渡航の困難のため、もともと想定していた現地でのミュージアム調査を実施できなかったが、22-23年度に上掲のサモーキシュのアルバム復刊に取り組んだことで、歴史的遺物の展示意図の分析に関わる成果を出すことができた。
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