最終年度は、本科研の総まとめとして、七隈史学会第25回大会におけるシンポジウム「九州の「室町時代」」において「外交からみた九州の地域権力」を報告し、中野等編『中近世九州・西国史研究』(吉川弘文館、2024年)において「室町幕府による異国通交の特質」という論文を発表した。 前者は、中世後期における九州の地域権力を「外交」(異国との通交貿易)という視角から比較考察したものである。九州の地域権力の「外交」を個別に考察したものは一定程度存在するが、全体を概観したようなものはなかった。考察の結果、朝鮮と特別な関係を形成しながら、遣明船の経営にも参与し、琉球との通交貿易も展開した大内氏の存在が際立っていることを明示した。「外交」は、西国大名を比較する際の重要な指標となり得ることも指摘した。 後者は、室町幕府(室町殿)やその周辺の有力大名が異国と通交する際、どのような通交姿勢をいだき、それにはいかなる特質があったのかということについて確認した。その結果、室町幕府(室町殿)やその周辺の有力大名の異国通交は、九州大名のおこなう異国通交とはかなり違うことが明確となった。とりわけ、朝鮮と琉球とのかかわり方については特徴が際立つ。 中世後期日本の諸勢力の異国通交における姿勢とその特質の地域的差異は、伝統的な外交慣習や対外観の影響の強弱や、異国との物理的な距離の遠近が大きく影響していた。また、幕府周辺の有力大名は、例え伝統的対外観に影響されなかったとしても、大内氏のように独自の異国通交をすることは難しく、土岐氏が幕府(室町殿)を通じて朝鮮から大蔵経を獲得したように、幕府(室町殿)に依存する形でしか異国通交を実現できなかった。朝鮮や琉球との異国通交という指標でみれば、大内氏は幕府体制に依存することなく、その埒外で活動できたのであり、幕府周辺の有力大名の活動は幕府体制の範疇に留まっていたといえる。
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