研究課題/領域番号 |
19K00960
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
上野 大輔 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (90632117)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日本史 / 近世史 / 仏教史 / 触頭 / 組合 / 講 |
研究実績の概要 |
私は今年度、近世仏教教団における触頭制度とその地域的基盤について明らかにするため、寺院史料の調査をはじめとする取り組みを進めた。 まず、真宗東本願寺派の触頭であった越中国城端善徳寺と加賀国金沢瑞泉寺に伝来した史料群(善徳寺文書、瑞泉寺文書)に注目し、既撮影史料の読み込みと既刊行文献の収集・検討を進め、善徳寺文書の複写本を所蔵する富山県公文書館に出張して未撮影史料を撮影・検討した。また、同じく東本願寺派触頭の三河国碧海郡野寺村本證寺に関する既刊行文献を収集・検討した。それにより、17世紀段階からの触頭や寺院組合の動向を具体的に把握できた。 次に、真宗西本願寺派の録所(上級触頭)である長門国萩清光寺の下で組頭を務めた同国美祢郡綾木村明林寺に伝来した史料(明林寺文書)をもとに、長州藩地域における寺院組合の形成と展開に関する論文の作成を進めた。これと関連して、長州藩の藩政史料や長門国大津郡三隅村極楽寺に伝来した史料も調査・検討した。 一方、江戸触頭とその地域的基盤を明らかにするため、西本願寺派の築地御坊やその下にあった麻布善福寺に関する史料を検討した。また、依頼を受けて江戸三田寺町について調査・講演し、その中で東本願寺派の浅草御坊の下にあって三田寺町を構成した明福寺にも注目した。更に、浄土宗鎮西派の芝増上寺や臨済宗五山派の芝金地院なども検討し、その成果を最新版『港区史』(東京都港区、編纂中)の執筆担当部分に反映させた。 その他、近江国坂田郡柏原村成菩提院(天台宗)や長門国大津郡大日比浦西円寺(浄土宗鎮西派)に伝来した史料を調査して、寺院・僧侶・門信徒の地域的なつながりを把握した。また、依頼を受けて近世仏教史を含む2018年の研究動向を『史学雑誌』の「回顧と展望」にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
善徳寺文書・瑞泉寺文書は共に厖大な史料群であり、今年度には既撮影史料の読み込み、既刊行文献の収集・検討、未撮影史料の撮影・検討を着実に進めることができたが、次年度以降も継続し、研究課題と関わる論点などを整理してゆく必要がある。 明林寺文書をもとに長州藩地域における寺院組合の形成と展開に関する論文を作成していたところ、『山口県地方史研究』への投稿の依頼があったため、これに応じ、次年度に上記の論文を同誌へ投稿することにした。 江戸触頭とその地域的基盤に関する知見を含む最新版『港区史』は、次年度以降に刊行される予定である。 一方、依頼を受けて芹口真結子『近世仏教の教説と教化』(法蔵館、2019年)の書評を『歴史学研究』に、菅原征子『近世の女性と仏教』(吉川弘文館、2019年)の書評を『日本歴史』に、それぞれ投稿した。芹口著・菅原著には、本研究課題と関わる論点が含まれる。また、他の研究者から誘いを受け、国際学会で研究成果を発信するために共同で研究発表を企画し、ヨーロッパ日本研究協会(European Association for Japanese Studies、略称EAJS)の2020年の国際会議(International Conference)に応募した。 その他、近世の宗教と社会研究会例会、日本史研究会大会、日本思想史学会大会、中近世宗教史研究会例会などに出席し、本研究課題の位置づけなどについて考察を深めることができた。 以上のように、今年度は触頭制度とその地域的基盤に関する学会発表や論文掲載には至らなかったものの、その前提となる取り組みを順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は研究をおおむね順調に進めることができたものの、研究対象をやや広げすぎた感があるため、次年度は研究対象をなるべく主要なものに絞って取り組みを継続したい。 まず、善徳寺文書、瑞泉寺文書、関連する既刊行文献などの検討を進める。必要に応じて、未撮影史料の撮影のために出張したい。 次に、明林寺文書をもとに長州藩地域における寺院組合の形成と展開に関する論文をまとめ、『山口県地方史研究』に投稿する。 また、江戸の築地御坊・麻布善福寺の検討も踏まえ、築地御坊配下の触口(下級触頭)であった相模国三浦郡野比村最宝寺の触伝達について検討し、論文にまとめたい。 研究課題と関わる依頼にも、適宜応じることとする。その中で、中世とは異なる近世の仏教教団の特色について考察を進め、他の研究者と議論を交わす機会が得られればと思っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の終盤に出張を見合わせ、既撮影史料などの検討に集中したため、次年度使用の研究費が生じた。この研究費は、次年度の図書費・旅費に充当したい。
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備考 |
上野大輔「〔レクチャー〕寺町の形成と変容」(都市のカルチュラル・ナラティヴ、主催:慶應義塾大学アート・センター、共催:東京都港区、招待講演、2019年11月25日)
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