研究課題/領域番号 |
19K01016
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
青木 雅浩 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (70631422)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | モンゴル史 / 諜報 / 軍事 / モンゴル人民共和国 / ソ連 |
研究実績の概要 |
2019年度の研究計画においては、1920年代前半のモンゴルにおいて発生した政治事件に対する諜報活動の影響を、ロシア・モンゴルの公文書史料を用いて検討した。これにより、1920年代前半のモンゴル人国家における諜報活動が持つ特徴を解明し、翌年度以降の研究の基礎を築くことを目指した。 1922年にモンゴル人民政府の首相・外務大臣を務めたボドーとその仲間達が政府を追われ、のちに粛清された所謂ボドー事件における諜報活動のあり方を、2019年度の主たる研究テーマとした。研究の結果明らかになったのは、モンゴルにおける諜報活動と東北アジアの関係性である。当時モンゴルでソヴィエト・ロシアの活動を指導していた外務人民委員部モンゴル駐在副代表のA. Ya. オフチンは、ボドー達の「反ソ」的活動の危険性を判断する際に、満洲のロシア白軍の有力者(G. M. セミョーノフ等)、中国華北の情勢、モンゴル国内の王公、高僧等の政治的有力者とボドーの密接な関係を、諜報活動により詳細に調査していた。また、ボドー達の逮捕、尋問には、ソヴィエト・ロシアの関与によって設置されたモンゴルの諜報機関である内防局が深く関わっていた。 この研究成果から、1920年代前半のモンゴルにおけるモンゴル人、ソ連の諜報活動が、単にモンゴル一地域に留まるものではなく、東北アジア全体と緊密な関係を有したものであったことと、このようなモンゴルにおける諜報活動の特徴故にモンゴルの政治情勢に東北アジアの政治情勢が反映しやすい状況が生じていたことが明らかになったと言えよう。 モンゴルにおける諜報活動が東北アジア全体と緊密に関係していた、というこの成果を元にして、次年度以降、諜報活動がモンゴル人国家の形成・運営にどう作用したのかを引き続き検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の2019年度の計画では、史料の調査・収集・分析を主として行う予定であった。だが、研究が予定よりも早く進み、また国際的な場で研究発表を行う機会を得たため、研究成果を発表することとした。本研究計画の成果の一部として、2019年10月にソウルで行われた国際シンポジウムで研究発表を行い、また同月にサンクトペテルブルグで刊行された論文集にモンゴル語の論文を掲載した。 2019年度の史料調査では、モンゴル語史料の収集に特に努めた。2019年9月にモンゴル国の政党・公共機関文書館において調査を行い、1920年代中期のモンゴル人民共和国の政治情勢に関する公文書史料を収集した。また、アジア歴史資料センターで閲覧可能な外務省外交史料館の公文書史料を調査し、1920年代中期の東北アジアにおける日本の活動とモンゴルとの関係に関連する史料を分析した。また、日本、モンゴル国において研究文献、論文の収集に努め、現時点で必要な研究文献を収集することができた。 なお、2020年3月にロシアにおいて行う予定であった史料調査は、コロナウイルス感染の拡大のため、中止せざるを得なかった。この代替措置として、研究代表者の収集済みのロシア語公文書史料、史料集を読解、分析し、必要な情報を収集した。これにより、ソ連の公文書史料から得られる情報を入手し、ロシアで文書館調査を行えなかった欠を補うことに努めた。 これらの2019年度の研究活動により、1920年代前半のモンゴルの政治情勢における軍事・諜報活動の影響と役割を分析し終えることができ、モンゴル人民共和国が成立し、本格的なモンゴル人国家の建設が始まる1920年代中期のモンゴルの政治情勢と諜報活動の関係を研究する準備が整えられた。以上の点から、2019年度の研究計画は、ほぼ予定通りに進展している、と判断しうる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画通り、2020年度においては、研究成果の中間発表と史料調査を行う予定である。収集済みのモンゴル、日本、ロシアの公文書史料、史料集の読解・分析をさらに進め、モンゴル人民共和国成立期、即ち1920年代前半~中期のモンゴルの政治情勢や、モンゴル人国家の形成・運営に対する軍事・諜報活動の影響について、研究を進めることになる。 史料調査に関して、コロナウイルス感染が世界的に拡大し続けている状況下においては、例年のようなモンゴル、ロシアにおける調査を十分に行えない可能性が高いと考えられる。この状況に鑑み、2020年度においては、ネットを利用した文献・史料の調査も含めた、日本国内での史料調査をより強化する予定である。もし国際的な状況が好転し、海外における史料調査が可能になった場合には、速やかに史料調査を行うこととする。 また、国内外の学会の開催が相次いで中止されている現状においては、研究成果の発表を行うこと自体が困難になりつつある。この状況の中、研究代表者は、2件の論考を2020年夏、秋にそれぞれ提出することになっている。これらの論考に本研究計画の成果を盛り込み、研究成果の中間発表を行うこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の研究計画では、2020年3月にロシアにおける文書館調査、研究文献収集を予定していた。しかし、コロナウイルスの世界的な感染拡大のため、ロシアへの渡航をやむなく中止し、史料調査を実行できなかった。このため、ロシアへの渡航費、ロシア滞在費を使うことができず、次年度使用額が発生した。 2020年度においては、発生した次年度使用額を史料調査、史料集・研究文献購入に当てる予定である。なお、この次年度使用額は、上記の通り本来史料調査、公文書史料の収集、ロシア語研究文献の収集に利用する費用であった。このため、2020年度においても、この次年度使用額は、史料収集とロシア語研究文献の収集に優先的に当てることとする。
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