研究実績の概要 |
特別法を含めた宋代法典の全体的な構造を明らかにし、宋朝が社会に対して示していた行政姿勢およびその背景となった当該社会の諸問題を明らかにするという本研究の目的のもとに、本年度も前年度に引き続き、宋代特別法の研究を推進した。ことに本年度は『宋会要輯稿』刑法「格敕」、『宋史』藝文志、『玉海』巻66などに所載の刑法関係の書目を重要な手掛かりとして、宋代特別法の編纂過程の概要を示し、さらに『宋会要輯稿』『続資治通鑑長編』を中心とした基本資料から可能な限り法典名・編纂年月日・編纂者・巻数を収集した結果、以下のことが明らかになった。 ①神宗期以降に特別法頒布が激増した。②この頃より1,000巻を超える大部のものも出現した。③英宗期まで敕・令・格・式のいずれか一つの種類の法典が主だったのが、神宗期から徽宗期にかけて複数種類、さらには敕令格式全てを揃えた法典が整備された。④これは元豊の神宗の修書方針明確化(敕令格式再定義)を機としている。⑤敕令格式の整備は海行法ではなく諸司にまつわる特別法において先行している。⑥これに対応し神宗期から徽宗期に新たな立法形式が現れる、といった多くの事実が発見された。 そしてこれらの事象は、神宗の統治方針を背景としていることが予測された。すなわち従来、唐末から宋代にかけては、明清とは対照的に国家が積極的に社会的諸問題に介入してゆく、所謂state activismと呼ばれる統治姿勢が見られることが指摘されてきたが(Paul Smith, Richard Schirokauer, Peter Bol, etc.)、本研究によって示された神宗の法制改革の諸側面は、行財政的、社会的諸問題を政府が法的手段で対処しようとしている点において、まさにこのstate activismを背景としていることが明らかになった。
|