研究実績の概要 |
最終年度には、これまで収集した史資料の分析を進め、論稿を投稿し、査読に応じた改稿を行っている。「クラウゼヴィッツ以降の戦争論の系譜と構築される戦争像 」『歴史学研究』1036号,53-60頁,2023年では、『戦争論』の思考形態が戦争を見る視点において広範な影響を与えた点について言及した。また、「ドイツ語圏軍事雑誌の公共圏:1870年代を中心として」(軍事史学会第127回関西支部、2024年1月27日報告、Zoom報告)では、軍事的認識の専門化が進行してくる前提条件を整理した。丸畠宏太「19世紀前半期プロイセンにおける新しい下士官像の模索―国民軍隊に相応しい下士官とは」『敬和学園大学研究紀要』33号, 2024年, 49-74頁では、19世紀において形成される下士官のメンタリティ形成に関する分析を行った。 第一次世界大戦期においても、深町聡氏に「大戦期の英国のプロパガンダについて」(中島科研集会、2023年7月9日、学士会館305号室)において、第一次世界大戦以降のドイツに対するイギリスのプロパガンダと小説家たちの関連性についての問題提起をいただいた。 第一次世界大戦前のドイツの戦争肯定論を分析するうえで、他国の情報を増幅するメディアを通じての相互イメージの増幅作用が大きな役割を演じていたことが明確となった。特に、フランス、イギリス、日本といった他国のイメージ、軍事や戦争の状況認識がドイツの戦争肯定論形成の過程で大きな役割を果たしていることが見えてきた。くわえて、同時代に進行する軍事の専門化・精緻化の一方で、大衆レベルにおいても軍事や戦争に関する強い関心が生まれ、それが他国との比較分析によって正当化されていく状況に注目する必要が出てきた。今後はさらに多国間の関連性に重きを置いた分析を行っていく予定である。
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