マレーシア・サラワク州の内陸先住民たちのアブラヤシ栽培の状況に関して、ミリ省やビントゥル省、ルボック・アントゥ省などでの現地調査を行い、いくつかの新たな動向や地域的な差異を確認することができた。具体的には次の諸点が明らかになった。 1)ライセンス登録制度及び認証制度の浸透により、多くの内陸先住民が政府によって認知されたフォーマルな小農となっていた。ただし、これらは地域によって差が認められ、インフォーマルな栽培を続ける者も存在する。2)世界商品であるアブラヤシ栽培・流通のネットワークに垂直統合されている状況が顕著になってきた。3)その一方で、EUDR(European Union Deforestation Regulation)などの新たな世界的動向を意識せざるを得ず、自由度の低下が懸念される状況になっている。4)先住民によるアブラヤシ生産者団体の性格が、小農への情報提供から、小農の自立的栽培と権利確保へと機能変化し、政治性を帯びつつあることが確認できた。5)EUの求めるトレーサビリティ確保や環境配慮等に関して、デジタル・デバイスを利用した対応策を模索しつつあることが明らかになった。6)小農と大規模農園との関係性が多様化し、従来型の農園企業vs小農という対立構図では把握しきれない複雑な階層性が見いだされた。7)アブラヤシへの依存度を低めて、多品種栽培を模索する小農やプランテーション業者が存在する。このように、一部で「脱アブラヤシ化」の動きがみられる。これらの調査研究結果の一部を学術誌『人文研究』(査読付き)に投稿し受理されたほか、いくつかの成果発表を行った。
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