研究課題/領域番号 |
19K01247
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
牧野 絵美 名古屋大学, 法学研究科, 講師 (00538225)
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研究分担者 |
Ismatov Aziz 名古屋大学, 法学研究科, 特任講師 (90751206)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ミャンマー / ウズベキスタン / 憲法裁判所 / 権力分立 / 人権保障 |
研究実績の概要 |
2020年度は、ミャンマー及びウズベキスタンの人権保障メカニズムの問題点を明らかにすることを目的とし、研究を実施した。社会主義崩壊後、多くの旧社会主義国が体制転換後の新しい憲法を制定する際、国が権利を付与するという発想から、権利は生まれながらにして有するという発想へと変わった。同時にその権利を司法によって保護する制度を取り入れ、多くの国で憲法裁判所が設立された。しかし、ミャンマー及びウズベキスタンでは、国が権利を付与するという発想が根強く残っている。2020年には、新型コロナウィルス感染症拡大を抑制するために、世界各国政府は、市民に対して行動制限を課すという事態が発生した。ミャンマー及びウズベキスタンにおいても、ロックダウン、商業施設の閉鎖、公共交通機関の閉鎖、一定人数以上の集会禁止、マスク着用の義務化など、様々な行動制限が課された。この行動制限に違反した場合、罰則が科されるなど、厳しい措置が講じられたのが特徴である。両国の憲法では、移動の自由、経済活動の自由などを保障しているものの、新型コロナウィルス感染症に対しては、生まれながらにして不可侵の権利である「人権」という文脈よりは、社会主義的な国家の存在を前提とする「市民の基本的権利」という発想で、かつ憲法や法律ではなく大統領令や行政命令など行政府が主導で対応が講じられた。 また、2020年度は、名古屋大学ミャンマー・日本法律研究センター及びメルボルン大学ロースクール関係者の協力を得て、これまで出されたミャンマー及びウズベキスタン憲法裁判所のすべての判決の英訳に取り組んだ。今後、両国の憲法裁判所と連携し、英訳の公開を予定しているが、今後ミャンマー語・ウズベク語・ロシア語を解さない様々な学者とも議論を進める環境が整いつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、研究代表者及び分担者が所属するCALEが立憲主義に関するワークショップシリーズを開催しており、ユーラシアの立憲魏主義に焦点をあてた8月のワークショップでは、Positive or natural rights? converging conflicting doctrines in Central Asiaʼs post-socialist constitutionsと題した発表をし、1月に開催されたASEANにおける司法の独立に関するワークショップにも参加をし、ユーラシア諸国及びASEAN諸国の憲法専門家と意見交換を行うことができた。 また、2019年度にCALEが主催したEmergence and Features of the Constitutional Review Bodies in Asia: A Comparative Analysis of Transitional Countries' Developmentの報告書を牧野とイスマトフで監修し、CALE Discussion Paper No.19として発行するとともに、「アジアにおける立憲主義の諸相―アジア的「文脈」とその論理―」での報告がCALE紀要であるAsian Law Bulletin第6号に掲載されるなど、本研究の成果を公表している。 しかし、新型コロナウィルス感染症拡大にともない、海外渡航に制限が加えられたことにより、現地での専門家へのヒアリング調査が実施できていない。加えて、2021年2月にミャンマーにおいて国軍による政変が発生し、本研究課題のテーマは、今回の政変で対立した国軍と民主化グループとの間で論争となっているため、ミャンマー関係者との意見交換が難しい上に、政府機関のウェブサイトへアクセス制限により情報入手もが困難となり、研究に支障が出始めている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年2月、ミャンマーにおいて軍事政変が発生し、立法、行政及び司法の全権が、国軍最高司令官に移譲された。国軍は、憲法に則って全権移譲したと主張しているが、その合憲性には疑義がある。憲法裁判所裁判官もすべて交代し、国軍寄りの人事となった。国軍に対抗しし、民主化グループが選挙で当選した議員による連邦議会代表委員会を設立し、同委員会は現行の2008年憲法の停止を発表し、それに代わる連邦民主憲章を発表した。同憲章は、少数民族に配慮した連邦制民主主義国家の樹立を謳っており、連邦と地方の間及び地方間での憲法上の紛争を解決するために憲法裁判所の設立が盛り込まれている。しかし、軍事政権は民主化グループの立ち上げた政府をテロ組織と認定し、関係者を不当な罪で拘束している。今回の軍事政変により、憲法裁判所が果たす役割はかなり縮小した上に、国軍の政権奪取により立憲主義が危ぶまれている状況であり、今後のミャンマーを巡る立憲主義の課題を分析する。 一方、ウズベキスタンでは、2021年5月に新しい憲法裁判所に関する法律が制定され、改革が進んでいる。設立当初は活発に判決が出されていたが、近年の活動は停滞していた。今回の法改正により、裁判官が7名から9名に増え、大統領、内閣、検事総長及び議会の3分の1の議員などしか憲法裁判所に提訴できなかったが、新たに一般市民による提訴も認められるようになり、憲法裁判所が人権保障に果たす役割が大きくなることが期待されている。しかし、ここ数年の憲法裁判所の活動の停滞により、質の高い判決を出すことができるかといった懸念もあり、今回制定された新しい法律により、憲法裁判所の改革がどのように進み、どのような課題が出てくるかを分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大にともない、本研究課題で対象となっているミャンマー及びウズベキスタンは、外務省の安全渡航情報により、レベル3(渡航中止勧告)が出されている。名古屋大学のルールでは、レベル3の国への渡航は、日本又は相手国政府からの要請がなければ、渡航は認められず、2020年度は旅費の支出ができなかった。その代替として、大学院生をアルバイトで雇用し、情報収集に協力してもらった。
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