研究課題/領域番号 |
19K01247
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
牧野 絵美 名古屋大学, 法学研究科, 講師 (00538225)
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研究分担者 |
Ismatov Aziz 名古屋大学, 法学研究科, 特任講師 (90751206)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ミャンマー / ウズベキスタン / 憲法裁判所 / 権力分立 / 人権保障 |
研究実績の概要 |
2021年2月にミャンマーで発生した軍事クーデターにより、ミャンマーにおける立憲主義は危機に直面している。国軍は、2020年11月の総選挙での不正を主張し、2021年2月の議会招集当日未明、国軍は、ウィンミン大統領およびアウンサンスーチー国家顧問をはじめとするNLD幹部等多数を拘束した。国軍出身のミンスエ第一副大統領が大統領代行に就任し、緊急事態宣言が発令され 、国軍最高司令官に立法、行政及び司法の全権が移譲された。しかし、その就任に憲法上疑義のある大統領代行により、国防治安評議会との調整なく緊急事態宣言が発令され、かつ緊急事態宣言の構成要素である「連邦の分裂」、「民族団結の分断」又は「主権の喪失」を引き起こす事態であったとは言い難く、緊急事態宣言の正当性はない。 軍事クーデター直後、国軍は、国軍最高司令官を長とする国家行政評議会を設置し、その後8月に同評議会は、暫定政府を樹立した。軍事政権は、裁判所の許可なく市民の拘束又は個人の住居の家宅捜索を可能としたり、国軍に対する不満等発言国軍に対する妨害行動・虚偽のニュースの拡散等が新たに犯罪として加えられたり、一部の犯罪に対する令状なしの逮捕が可能になるなど、国軍に対する抗議デモを取り締まる法改正が行われ、憲法 裁判所の機能も事実上停止している。 一方、民主派勢力は、国民から選挙で選出された当選議員有志による連邦議会代表委員会を設置し、4月に暫定政府として国民統一政府を発足した。民主派政権は、2008年憲法を停止し、これに代わる「連邦民主憲章」を採択し、新たな憲法制定に向けた制憲議会の招集を目指しているが、同憲章においても、独立した憲法裁判所の設置がうたわれており、今後の新たな憲法でどのように位置づけられるかを注視する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、引き続き、ミャンマー及びウズベキスタン憲法裁判所判決英訳に取り組んだ。ウズベキスタンについてはすでに英訳が完了し、憲法裁判所ウェブサイトに公開されている。ミャンマーについては、最終確認の段階にあり、2022年度中に終了する予定であり、軍事政権下にある憲法裁判所ウェブサイトでの公開は控え、名古屋大学法政国際教育協力研究センター(CALE)ウェブサイトに掲載する。 2月には、所属組織であるCALEがConference on “The Identity and Dynamics of Contemporary Asian Constitutionalism in the Context of Globalization”を開催し、ユーラシア諸国及びASEAN諸国の憲法専門家と意見交換を行った。 イスマトフは、Harvard Law Schoolの2021 Global Scholars Academy参加研究者に選出され、世界の著名な研究者の指導を受け、ソ連崩壊後の中央アジアの権威主義に焦点をあてた研究を行い、本研究にも寄与した。研究成果も国内外の雑誌に投稿し、牧野による「国軍によるミャンマー政変と2008年憲法」や「ミャンマー連邦共和国憲法(解説“多民族国家と「連邦制」”・訳)」、イスマトフによる「ウズベキスタン1992 年憲法制定過程における歴史的文脈の影響」などがある。 しかし、新型コロナウィルス感染症拡大にともない、海外渡航に制限が加えられ、現地での専門家へのヒアリング調査が実施できていない。加えて、2021年2月にミャンマーにおいて軍事政変が発生し、国軍への抗議の取り締まりが強化され、通信は傍受される可能性がある。情報収集は限定的であり、憲法に関する議論は、協力者のミャンマー研究者が逮捕・拘束される危険を含み、これまでのように研究を遂行できる環境ではない。
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今後の研究の推進方策 |
2021年2月にミャンマーにおいて軍事政変が発生し、1年間の起源で緊急事態宣言が発令され、立法、行政及び司法の全権が国軍最高司令官に移譲された。緊急事態宣言は、1回の延長を6ヶ月とし、最大2回延長することができ、2022年2月に1回目の延長が宣言された。2022年7月に、再び6ヶ月の延長宣言がなされると予想され、緊急事態終了後、6ヶ月以内に総選挙が実施される。 一方、民主化勢力が設置した連邦議会代表委員会は、現行の2008年憲法の停止を発表し、それに代わる連邦民主憲章を発表している。その後発足した国民統一政府は、国民統一諮問委員会を設置した。同委員会には、立法組織として連邦議会代表委員会、行政組織として国民統一政府に加え、少数民族武装組織、少数民族政党、不服従運動参加グループなどが含まれている。同委員会は、連邦制国家の樹立を最優先事項としており、民主主義を重視するアウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)のビジョンとは異なる。民主化勢力間の対話と協議を、より包括的でコンセンサスによって行おうとしており、特定の政党や個人がこの委員会を主導することはないとしている。 2022年1月に初めての人民総会を開催し、約400名の代表者がオンラインで参加し、5名から構成される幹部会を選出した。本総会では、連邦民主憲章の改正が採択された。2022年度は、改正された連邦民主憲章を検討し、民主化勢力がどのような統治構造により、連邦制国家を樹立しようとしているのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大にともない、海外渡航に制限が加えられ、ミャンマー及びウズベキスタンに渡航し、現地での専門家へのヒアリング調査が実施できなかったため、旅費の支出ができなかった。加えて、ミャンマーにおいて、2021年2月に軍事クーデターが発生し、緊急事態宣言が発令された。クーデター後、国軍により、クーデターへの抗議の取り締まりが強化され、通信は傍受される可能性がある。政府関係機関のウェブサイトは閲覧できないことも多く、情報収集は限定的である。さらに、本研究は、憲法をテーマとしており、国軍と総選挙で大勝した民主化グループとの間で論争となっている憲法に関する議論は、協力者のミャンマー研究者が逮捕・拘束される危険を含み、研究の遂行に遅れが生じた。
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