研究課題/領域番号 |
19K01254
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
西村 安博 同志社大学, 法学部, 教授 (90274414)
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研究分担者 |
岩元 修一 宇部工業高等専門学校, 一般科, 嘱託教授 (00175217)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 私和与 / 和与 / 入門 / 訴陳状 / 東大寺文書 / 鎌倉幕府 / 建武政権 / 室町幕府 |
研究実績の概要 |
(1)本年度は昨年度に引き続き、日本中世の裁判手続(主として所務沙汰)にみられる事実認定のあり方および手続的判断の実態を解明するための基礎的な作業を試みた。 (2)研究代表者は、こんにちにいたるまでの私和与に関する学説上の基本的な理解をあらためて確認する作業を試みる一方、鎌倉幕府の裁判において、訴訟当事者が私和与の語を用いている場合、および裁判所が判断を行う中で私和与の語を用いている場合に関して検討を行うことにより、裁判手続上における私和与の実態および裁判所の私和与に対する認識の一端を明らかにした。また、このことと同時に、訴えが裁判所に提起されることなく両当事者間の交渉により成立した和与が後の裁判所における訴訟手続の上ではいかなる取り扱いを受けることになったのかについても、一定の理解のもとに新たな仮説を提示するにいたっている。『沙汰未練書』にいう私和与の定義は学説上、認可の裁許を得ていない和与は法的効力を有しないと理解されているが、果たしてこの理解は正確なものといえるのであろうか。如上の検討を試みた研究代表者は必ずしもそのような理解を得ていない。日本中世の裁判手続における証拠法のあり方を解明していく中で、私和与の定義を再検討することは避けて通ることの出来ない問題であると考えている。 (3)研究分担者は、鎌倉期から南北朝・室町期の武家および権門(主として東大寺)の裁判手続における入門(いりかど)の実態解明を試みた。その結果、入門とは訴論人が召合されて担当奉行のもとで問答を行う際に、審理する側が採用した手続であり、裁判所が訴論人の間で共有出来る論点を発見し迅速な解決を目指す手続であったこと、そしてこれは一方的裁許ではなかったこと、などをはじめとする多くの事実が明らかになっており、これは法制史研究に一石を投じるものになるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究代表者は昨年度に引き続き、訴訟関係文書に記される私和与の語が果たしてどのような実態をともなうものであるのか、『沙汰未練書』に記される「私和与」の定義をより具体的にはどのように理解することが可能なのか、という課題について取り組んでいる。私和与に関係する史料は旧稿(「鎌倉幕府の裁判における私和与について-関係史料の基礎的な整理のために-」『同志社法學』第69巻第7号、2018年)において整理を試みているが、その整理の際の分類基準に関する再検討を含め、個別史料の詳細な検討作業をいま暫く継続させる必要があることが計画の遅れにつながっている。裁判所で行われた和与の認可手続の問題(平山行三氏のいう「審査」)に関しては、当該和与が両当事者の合意のもとに成立したのか否かが裁判所によって確認されることが基本的なあり方であって(あくまで御家人所領が非御家人のもとに移動するという事態が生じないことが前提にされている)、平山氏の強調されるように幕府裁判所の政策的判断が反映されることを意味するものとしての「審査」は行われていなかったのではないかとの理解を得られたことはささやかな成果の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
日本中世の裁判手続上、訴訟当事者あるいは裁判所が私和与に対していかなる認識を有していたのか、という根本的な問題が存在することをあらためて理解した上で、広く証拠法上の問題として和与・私和与の問題を捉え直していく方向で検討作業を進めていきたい。さらには、和与を認可することの裁判手続上の意義について、裁判所が採用したと理解されている「不論理非」の論理の適用事例の一つとして片付けることが果たして可能なのかという、研究代表者の抱き続ける疑問に対しても、なにがしかの理解を得るための契機を導きたいと考えている。そして、研究分担者が明らかにするにいたった「入門」に関する新たな理解を起点とすることにより、訴陳の実態を踏まえた上での裁判所による事実認定および手続的判断のあり方について一定の知見を得ていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
史料調査をはじめとする出張が調査予定先の事情により制限されたため、予定された出張を実行することが叶わなかった。次年度では、この繰り越し額を新たな出張計画に係る予算あるいは図書資料の購入予算に充てることにより、当初の研究計画を遂行したいと考えている。
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