本研究では、グローバル化、情報化、リスク社会化などの変化が司法審査にどのような影響をもたらしたかという問題意識の下、その変化や影響を考察するとともに、司法審査の漸進的積極化を明らかにし、生ける憲法の概念などを参考にしながら憲法論との接合を試みた。 上記3つに関わる事項として、パンデミック対策と司法審査の問題を挙げることができる。そこでは、グローバルレベルの協働や情報共有、パンデミックというリスクとパンデミック対策というリスクの両方を検討しなければならない。そこで、最終年度も引き続きパンデミックの問題を取り上げて考察を行った。とりわけ、2022年度に公法学会で報告した内容を基に公法研究に掲載する論文を執筆し、パンデミック時においても一定の司法審査が可能であることを提示した。また、要人警護の問題についてもリスク対策と対策のリスクが問題になるので、それに関する判例を考察した。 研究期間全体に行った研究概要としては、最初にグローバル化、情報化、リスク社会化における司法審査のあり方に関するアプローチを検討するために、ブライヤー裁判官の『裁判所と世界』の翻訳を行いながら、同時にそれを正当化する議論としての生ける憲法について考察を行った。それにより、司法が果たす役割が広がっており、生ける憲法の観点からそれを正当化できる余地があることを確認した上で、新型コロナのパンデミックを素材に、司法審査のあり方を具体的に考察した。パンデミック時には、政治部門や専門能力を備える行政機関が中心となって、各国と協力し、情報を共有かつ提供しながら、感染防止策を実施していくのであるが、パンデミック対策は様々な自由を制約することがある。そこで、アメリカや日本で実際に問題となった判例や裁判例を素材に司法審査のあり方を検討した。そこでは、法律の授権のチェックや必要最小限措置の審査など一定の役割があることを提示した。
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