従来の財政法学ないし財政憲法学は、財政の権力性に着目し、その権力性を、議会制民主主義と法治主義という二つの理念に基づいて適切にコントロールする手法を探求してきた。これに対し、権力ではなく貨幣に着目し、財政法の全体的な解明をしようとするのが本研究の課題である。 令和4年度までの研究では、①公法学における財政分析のあり方の基本的な特徴、②予算では把握されにくい財政法上例外として設置される資金の法的統制の可能性、③非伝統的政策を採用する中央銀行の金融政策の法的統制の可能性といった諸点について研究を進め、その成果を公表するとともに、中央銀行の金融政策の法的な統制について、海外の学術研究会に参加した。 令和5年度は、財政民主主義や議会の支出統制権、予備費といった財政法・財政憲法上の基礎理念や制度への分析を深め、論文を公表した。また、財務省における講演会や経済学等の他の分野の研究者が主催する研究会にも積極的に登壇し、研究成果のアウトリーチができた。 研究期間全体を通じて、①財政と金融との連続性に留意し、金融法・金融行政法の思考をも取り込みつつ、②財政や金融に関わるアクターや制度が多方面にわたり、それらが相互に作用しているという動態を適切に把握し得る財政法学の方法論を検討し、③もって、わが国における資金の流れにおける国庫の位置づけを確認し、それを規定している法的枠組みを動態的に明らかにすることができた。
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