研究課題/領域番号 |
19K01396
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平田 健治 大阪大学, 法学研究科, 名誉教授 (70173234)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 原状回復 / 不当利得 / 無効取消し / 解除 / 契約責任 / 損害 |
研究実績の概要 |
本研究は、民法改正(2017年)においてはじめて無効取消しの原状回復義務規定が新設されたことをきっかけとして、諸外国の動向を参照しつつ、解消原因に即した原状回復義務のあり方を検討するものである。 まず諸外国の動向を、申請時の研究計画で挙げた文献を中心に、その都度最近のものを補充しつつ、検討した。 その成果として、ドイツは、一方では、無効取消しに関する差額説判例が不当利得法を修正してきた現実を維持しつつ、解除法の根本的改正(2002年)により、給付返還の可否を解除の可否に連動させるシステムを放棄し、より柔軟かつ精緻な調整を明文に盛り込んでいること、学説の一部からの批判を受けつつも施行後20年以上経過し、概ね新法の評価は受容され、判例はそのルールの細部の彫塑に腐心していること、統合論の主張も有力であることが明らかとなった。 フランスは、2016年改正により、多くの解消原因の効果を(立法過程での紆余曲折を経て)非債弁済の規定に依拠しつつ一元化し、原状回復義務の統合論に与すること、判例は解消原因に即したその条文解釈の分化を進めるであろうが、今のところその全貌は見えてこないこと、が明らかとなった。 英米法では、まずもって注目すべきなのは、アメリカ回復法第3次リステイトメント(2011)の成立過程と受容動向の把握であるが、アメリカ法の特色を位置づけるために比較の対象として適宜イギリス法文献をも参照した。その結果、リステイトメントは一見、判例法の展開を反映させた、整合的な内容に見えるのだが、一歩中身に踏み入ると、なお不安定で発展途上な諸論点に囲まれていること、いわゆる債務不履行解除に対応する場合を無効取消しの場合と同様なルールに服させるように見えて、実は効果ルールで差異が計られていること、また、給付返還可否と解消の可否の連動ルールの緩和傾向は米英で異なる展開を見せていることなどが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績概要で触れたように、初年度において、ドイツ法、フランス法、英米法の現況と示唆について、調査による蓄積が達成できた。これらを順次、公表にまでもっていきたい。 とりわけ、回復法第3次リステイトメントは、契約責任、不法行為責任とも関連して従来の経過を批判的に論じた上で、リステイトされ、レポーターKull教授の考え方の反映が著しいが、他方その立場に対しては、批判もあるところである(これらの点については、Kull 教授のリステイトメント公表前の一連の論考、並びにイギリスにおけるリステイトメント公表前後の関連諸文献を参照した)。アメリカ法での原状回復義務の錯綜した歴史的経過と現状は、日本法の原状回復義務のあり方について、原状回復義務の内容統合の観点のみならず、契約解消の際の損害賠償との関連でも興味深い素材を提供してくれることが明らかとなった。できるだけ早くまとめたいと考えており、その関連文献の読み直しに当たっている。ただ、今までなじみの薄かった分野であり、大陸法と異なる制度や発想(この分野でいえば、法とエクイティの区別、救済(レメディ)の多様性など)の丁寧な理解が前提となり、着実に遂行する必要も感じている。
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今後の研究の推進方策 |
既に述べたように、アメリカ法の理解の深めは、日本法における、契約の解消、原状回復義務の、契約責任、損害賠償責任との関係の見直しにつながるものを持っていると思われる。 日本法との関連でいえば、債権法改正で導入された契約の中途終了の場合の利益調整規定(民法624条の2[雇用]、634条[請負]、648条3項[委任]、648条の2・2項)に示唆を与えるのではないかとの感触を得ている。 次年度以降は、まず、その成果のとりまとめと公表、次に、ドイツ、フランスに関しても、同様の方向での文献調査ととりまとめへと展開させていきたい。
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