前年度を受けて、さらに、アメリカ法の独自性を析出し、日本法への示唆を見いだそうとした。 (1)具体的には、契約清算において、損害賠償と利得返還の間に必ずしも厳格な区別がないと思われること、(2)債務不履行解除において、債務不履行をした者が原告となるか否かで分けて考える発想が残存していること、(3)契約類型ごとに先例の扱いが異なることが学説にも反映していること、総じて紛争の具体的な局面に即した発想が強いことである。訴訟方式が廃止された後も、その影響が残っている一面といえよう。 上記(1)については、損害賠償の対象となる利益として、一般に期待利益、信頼利益のほかに原状回復利益(不当利得)なるものが含まれていることに現れている。第3次回復法リステイトメント38条が、期待利益の代替的損害として、(a)信頼利益と(b)(不当利得に近い)履行の市場価値をまとめて、履行ベースの損害と呼ぶのも同様である。(2)(3)については、(i)被告の不履行による原状回復と(ii)不履行当事者への原状回復というように、リステイトメントや体系書がこの区別を採った上で、異なる内容の規律や説明を与えている。(i)については、原告の原状回復は原則として、被告の本質的不履行を要件とするが、契約類型によっては要求されていない。すなわち、本質的不履行がなくとも認められる場合、あっても認められない場合がある。(ii)については、全体として、賠償を請求する原告自身が不履行者なので、制裁的意味を込めて、救済は当初は抑制的であった。とりわけ、履行内容が物の引渡しではなく、無形的な利益である労務(サービス)の場合にそうであった。しかし、徐々に不当利得の観念が浸透するにつれ、また立法の後押しで、救済は強化されてきているが、なお契約類型による差は残っている。 最後に、これらの状況を理論的に整序しようとする学説の試みを検討した。
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