研究課題/領域番号 |
19K01437
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研究機関 | 大阪経済大学 |
研究代表者 |
橋谷 聡一 大阪経済大学, 経営学部, 教授 (20632706)
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研究分担者 |
古賀 敬作 大阪経済大学, 経営学部, 准教授 (10734535)
四條 北斗 大阪経済大学, 経営学部, 准教授 (60648046)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 福祉型の信託 / 信認義務 / 信託法8条 |
研究実績の概要 |
橋谷聡一「福祉型の信託を基礎づける」岡伸浩・小賀野晶一・鎌野 邦樹ら編『高齢社会における民法・信託法の展開 新井誠先生古稀記念論文集』(日本評論社、2021年)299-317頁において、本研究が前提とする福祉型の信託について検討した。具体的には、福祉型の信託の受益者像を措定するに際し、従来のように単に障がい者や高齢者に限定するのではなく、より広い対象とすることを社会福祉学の観点も踏まえつつ提言した。また、福祉型の信託において必要な観点について、財産法分野ではあまり顧みられることのなかったリハビリテーション、権利擁護、エンパワメントという観点を中心に検討し、福祉の支援を求める方が現在有している能力が福祉型の信託を用いることで却って奪われることのないように、クライエントに向き合いニード(ニーズ)を汲み取りアドボカシーに取り組むことの重要性を論じた。橋谷聡一「信託法8条について」澁谷彰久・大貫正男・池田惠利子・伊庭潔編著『成年後見・民事信託の実践と利用促進新井誠先生古稀記念論集』(日本加除出版、2021年)143-158頁においては、信認義務について検討しその根拠規定を信託法8条に求めた。制定法中心の日本においては、信託法においてすら信認義務の根拠となる明文の規定はあまり意識されてこなかった。そして、信託法8条の解釈については、一定の場合を除いて受託者が受益者となることができないと捉えられることが多かった。だが、同条は強行規定であり、イギリスにおいては信託においていかに忠実義務を任意規定化しても信認義務は排除できないことや同条の文理を踏まえると、同条が信認義務の根拠規定となりうるとの説を展開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共著書籍出版の都合上、本研究の基礎として位置づけている福祉型の信託にかかる研究の公刊が遅れたが、2021年これが実った。併せて、受益者と受託者の関係、すなわち信認関係についても制定法上の根拠規定を見出し、共著書籍を以って公刊した。 協同研究者も、これを基礎としてさらに研究を進めており、2022年度以降、その成果の公表を予定している。 従前、COVID-19の影響から、当初予定していた調査等が行えず、文献研究を中心とする研究計画の転換を図っていたところ、研究の進捗状況はやや遅れていたが、本年度は一定の成果を結実することができたことから、概ね順調に進展していると思料する。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19の関係から本来予定していたアンケート調査やこれに基づくヒアリングという研究方法が採れなくまったため、文献研究にシフトすることとなった。 今後さらに文献研究を進め、現行法制度におけ課題について抽出し、法学を中心としつつも学際的な諸分野の知見を活かしその解決方策を探る。 特に障がい者や高齢者、子どもを受益者とする福祉型の信託においては受託者の裁量が望まれるが、裁量型信託が定着しているとはいいがたいなかで、その課税関係の調査や裁量権行使の濫用をいかに防ぐか、との点についてさらなる研究を進め、その後、総括論考を発したい。また、福祉型の信託における受託者不正の発見、抑止、サンクションという観点からの調査を展開し、本研究の総括論稿へとつなげる方向である。 また、研究代表者が、1年間、台湾において在外研究を予定しており、同地で信託がどのように活用されているかも含め研究を発展させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた原因としては、引き続きCOVID-19により当初予定していた研究方策が採れないことが挙げられる。文献研究を軸としたため、結果として費用が減少し、次年度使用額が増えることとなった。 翌年度分の助成金については、研究の総括に向けてさらに研究を進めるために用いるとともに、機会があれば学会・シンポジウムで発表等を行う際の経費として活用する予定である。
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