本研究の目的は、日本の選挙とマクロ経済政策の分析によって、内閣による議会解散権の制約がどのような政策的帰結をもたらすのかを明らかにすることである。具体的には、①政権党が自らに有利な状況で解散権を行使することによって利益を得ているのかを明らかにする。②解散権の制約、すなわち選挙の時期が固定化されている場合、どのような制度的条件の下で、選挙時に政権党による拡張的なマクロ経済政策の実施が行われるかを明らかにする。 ①について、サプライズの衆議院の解散を社会が衆議院を解散することを予測していないタイミングでの解散として捉え、それを計測するため、『読売新聞』などに掲載されている1990年以降の衆議院解散に関する新聞記事のデータを収集し分析した。その結果、2005年と2014年の衆議院の解散がサプライズの解散であることがわかった。次に、サプライズの解散が政権党に利益をもたらすのかを分析するために、1990年以降の衆議院選挙の候補者データを収集し分析した。その結果、候補者擁立の準備で野党に不利な点が見られるものの、それ以外では政権党に大きな利益をもたらさないことを明らかにすることができた。 ②については、選挙の時期が固定されており、かつ中央銀行の独立性が低い場合、選挙時に金融緩和政策が実施されることを明らかにした。また、選挙制度の特徴を踏まえつつ、選挙の時期と財政政策の分析を行った。その結果、選挙の時期が固定されており、かつ小選挙区比例代表並立制の場合、選挙時に拡張的な財政政策が実施されることが確認できた。しかし、その効果は限定的であり、金融政策と比較するとほとんど効果がないことがわかった。加えて、民主制と独裁制を含めた多国間比較により選挙タイミングと財政政策の分析を行った。分析の結果、選挙の時期が固定されており、かつ選挙民主制の国で政府支出が増加しやすいことを明らかにすることができた。
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