官房研究(主に財政部門)について、基礎理論と実務的研究の2側面で進めた。基礎理論については、サイモンの状況定義理論に着目し、状況定義概念を梃子にサイモンの組織理論の構造及びその限界についてとりまとめ、2023年度に学会発表及び論文の作成を行った。その特長は、環境と組織の相互的規定関係を明らかにし、行動論を乗り超えたことであるが、一方、その課題は、状況定義によって組織に内生化された環境概念についてデータ化することができず、操作性をもった仮説を欠くところにあることを明らかにした。この課題を解決する一つの方法論として青木昌彦の組織理論(組織ユニット情報の相関性及びタスクの補完性により情報をメタ化し、関数化する試み)に着目し、研究を進めた。この流れのなかで、経済理論からの日本型雇用研究を進め、2023年度に学会発表を行った。青木昌彦の組織理論研究については、2024年度にずれ込んだが、既に学会発表を行い、現在論文をまとめているところである。 期間中、新型コロナの流行及び個人的な心臓疾患の発症により当初計画していた財政部門への大規模なアンケート及びインタビューを計画については実施することができなかったため、文献研究による基礎理論研究に重点を移した。 このため、実務面では、自身の財政課勤務経験と限られたインタビューをもとに、政策形成過程における財政課の機能を考察し、期間中自治体計画およびマニフェストと官房組織の関係について3本の論文を発表した。また、情報処理(共有)のパターンから日米の官僚組織を比較し、米国の公務員制度における近年の職階制の見直しを進める改革の根底には、経済的な効率性を規範的な観点から抑制しようとする制度に対する反発がある点について指摘した。
|