研究課題/領域番号 |
19K01526
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
片柳 真理 広島大学, 国際協力研究科, 教授 (80737677)
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研究分担者 |
山根 達郎 広島大学, 国際協力研究科, 准教授 (90420512)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 平和構築 / ビジネス / 信頼 / エンパワーメント / 共通利益 |
研究実績の概要 |
2019年度は、フィリピン、ミンダナオに関するフィールドワークを夏に予定していた。しかし、デング熱の流行により断念したため、研究成果は文献研究、オンライン会議によるフィールドワークの準備(研究内容の説明と研究への協力依頼)、研究協力者によるフィリピンでのフィールドワークの成果に限定されている。聞き取り対象は、研究者、企業家、政府関係者等である。聞き取り内容の主な点について以下に述べる。 まず、一研究者は企業の平和への貢献について懐疑的な意見を示した。企業活動が営利活動を中心とし、汚職により地元の人々の不利益になるという点を特に指摘した。これについては、平和構築分野の先行研究でも企業活動の正と負の両側面を指摘していることから、予測の範囲内である。 複数の企業の話から浮かび上がるのは、社会に貢献する活動をしていても、それを平和目的とは認識していない場合が多いことである。例えば、ある会社は戦闘によって破壊され、国内避難民が多数出た地域で住宅再建事業を行い、その建築のために地元の人々を雇用し、訓練した。そのことは同企業のホームページでも平和と結びつけて説明されているが、同事業の計画段階等について質問をしても、あまり明確な回答は得られない。通常の企業活動が、和平にも良い影響をもたらすのではないかという緩やかなつながりを認識しているにとどまり、「通商を通じた平和(Peace through Commerce)」の議論の範囲と考えられる。 他方、武装勢力の戦闘員だった人々は、生計が立てられれば戦いに戻ることはないとして、和平の目的意識をもって農業協同組合を拡大している例もある。ミンダナオ紛争中も地元企業は攻撃されることはなかったため、事業を継続した例が多かった。和平交渉の中で開発は一つの要素となっており、今後企業がどのようにそのプロセスに関わっていくかを注視していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度にはフィリピン、ミンダナオでのフィールドワークを計画していた。その準備作業として、複数の企業やソーシャル・ビジネスのコーディネートを行っている団体、紛争とビジネスに関するフィリピンの研究者などと、オンラインでのミーティングを行った。しかし、出張を予定していた時期にデング熱の流行が重なり、断念した。そのため、フィールドワークに関しては遅れが出てしまった。 しかし、研究協力者は早めに渡航しており、複数の聞き取りを行うことができたため、ミンダナオの事例についてある程度の情報を収集することができている。 その後、2020年4月のフィールドワークを予定して調整を行い、複数のアポイントメントもとりつけていた。しかし、今度はコロナウィルスの影響により、さらにフィールドワークの時期が延びることになった。 他方、2020年2月末から3月初頭にかけて、研究協力者である英国コベントリー大学信頼・平和・社会関係研究所(Centre for Trust, Peace and Social Relations)の専任研究員Frens Kroeger博士を訪ね、共著論文の打ち合わせを行った。今回は信頼そのものの概念ではなく、コミュニティ・ビルディングの視点から理論化していくことに合意することができ、執筆の方向性について具体的な役割分担を含めて計画を作成することができた。 研究分担者は、国連グローバル・コンパクト等の文献調査を予定通り実施した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は研究代表がミンダナオとボスニア・ヘルツェゴビナのフィールドワークを計画しているが、コロナ・ウィルスの影響によってはどちらか一つ、またはいずれも実施不可能になる可能性がある。その場合は、できる限りオンラインで既に面識のある企業関係者等から聞き取りを行う予定である。出張できる時期に備え、聞き取り先の状況の調査、聞き取り内容の準備を実施する。 研究分担者は、2020年度にニューヨークでの調査を予定している。しかし、これも同様に延期になる可能性がある。その場合は、文献による調査を継続し、リテラチャー・レビューの執筆等を行って研究を進める。 研究代表者は2018年度までの調査のデータを用いてボスニア・ヘルツェゴビナおよびクロアチアに関する単独の執筆活動も進める。また、ミンダナオやその他の地域についても文献調査を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度夏にフィリピンでのフィールドワークを予定していたが、デング熱の流行があり、渡航を断念した。2020年度に渡航したいと考えているが、コロナウィルスの影響によってはさらに延期せざるを得ない可能性がある。 2020年度は他にも研究代表者がボスニア・ヘルツェゴビナ、研究分担者がニューヨークの出張を予定している。これもコロナウィルスの状況によって実施の可否を判断していきたい。
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