研究課題/領域番号 |
19K01570
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
板井 広明 お茶の水女子大学, ジェンダー研究所, 特任講師 (60405032)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 功利主義 / フェミニズム / 公私二元論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はフェミニズムの思想史で適切に位置付けられてこなかった18~19世紀の功 利主義フェミニズムの諸相を明らかにすることであり、とりわけ焦点を合わせるのは功利主義の祖ベンサムである。 公刊されたベンサムのテクスト(Of Sexual Irregularities, and Other Writings On Sexual Morality)の検討に並んで、夏期にロンドン大学UCLで資料調査を行ない、UCL所蔵のベンサム草稿で結婚や家族に関する草稿が収められているBox Lxxを収集・複写・確認して、ベンサムの家族論について検討した。草稿類ゆえに解読作業が必要な箇所も多く、思想形成過程を跡付けるほど研究が進んだわけではなかったが、その解読作業については、トランスクライブ・ベンサムの責任者T・コーザー氏と意見交換し、また同じくUCLのスコフィールド教授から、いくつかの知見をもらった。 またベンサムの功利主義的女性論の特徴を浮き彫りにするため、J.S.ミルのフェミニズム思想について、慶應義塾大学の山尾忠弘氏に「J.S.ミルにおけるデモクラシーと女性参政権」(2019年10月7日)を報告してもらい、知見を得た。 12月には、ベンサムの功利主義的女性論の前提たる統治についての論考 "Surveillance and Metaphor of "Tribunal" in Bentham’s Utilitarianism"を、Revue detudes benthamiennesの第16号に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ベンサムの草稿資料を中心としたテクスト読解にあるため、必要な草稿類を収集し、またその草稿類にはさまれている当時の雑誌やメモなどの参考資料をチェックしつつ行なうものである。その点で、ロンドンでの資料収集はおおよそ当初の予定通りに行なうことができ、またベンサム研究および草稿解読に携わっている専門家との意見交換も行うことができたので、おおむね順調に進展している。 またベンサム研究者のアン・ブルノン=エルンスト氏(パンテオン・アサス大学)や、ロバート・オウエンの研究者であるオフェリ・スィミオン氏(ソルボンヌ・ヌーヴェル大学)の来日に合わせてセミナーを開き、18世紀から19世紀にかけて功利主義者と関わった女性たちの動向や思想について知見を深めることができた。 国内の研究者とは、これまでにも、さまざまに関わってきた梅垣千尋氏(ウルストンクラフト研究、青山学院大)や土方直史氏(オーウェンとトンプソン研究、中央大)と意見交換しつつ、進められている。18世紀末以降の英国の知的世界におけるベンサムの位置を明らかにする1年目の計画はおおよそ順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策については、当初の予定通り、ベンサムの議論を、エルヴェシウス、ゴドウィン、トンプソンなど、同時代的に女性の権利の擁護を主張した功利主義思想家との比較を行なうと考えている。草稿調査については、UCL所蔵Box lxxiii~lxxivのベンサム草稿を検討したいところだが、現時点では、新型コロナの感染がおさまっていないために、渡英が難しい状況にある。草稿はトランスクライブベンサムを通じて、電子化されつつあるが、草稿類に挟まれている当時の資料も重要であり、可能であるならば、秋以降に渡英の機会をもちたいと考えている。 また今年は19世紀後半まで射程を広げて、ブリテンにおけるフェミニストらの思想と運動について知見を広げ、功利主義との比較対象を行なう予定である。また当初の計画では、国際功利主義学会International So ciety for Utilitarian Studiesのシカゴ大会で報告予定であったが、大会が1年延期となったため、2021年夏の上記大会で、それまでの研究成果を報告する予定である。
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