研究実績の概要 |
本年度はコロナ禍で延長した本研究の最終年度であり、功利主義者ジェレミー・ベンサムが18世紀後半から19世紀前半にかけて展開した女性論と功利主義の関係、さらには同時代の思想家らとの位置関係を明らかにすることが主眼であった。 本年度は夏期に渡英がかない、University College, Londonの科学図書館およびベンサムプロジェクトを訪問して、ベンサムの草稿類のチェックや、P.スコフィールド氏との意見交換の機会を得た。 改めて、ベンサムの結婚論を中心に、家族関係の新たな構想についても検討を行ない、『道徳と立法の諸原理序説』を印刷した後の1780年代後半以降、ベンサムが法典編纂に注力する中で、ジェンダー平等的な両性への平等な権利付与や、女性の名誉、権利を擁護する議論を展開した次第を検討した。期限付きの婚姻制度の主張は人々の幸福最大化という視点からも正当化されるものであり、またそのような検討から、ベンサムが女性を劣位に置く元凶と考えた経済的平等に関する議論を展開していたことも確認できた。 このような形で、ベンサムの結婚論・家族論の再検討を通して、社会における根底的なジェンダー格差をベンサムが捉えていたことが明確になった。そのような見解が、同時代のウルストンクラフトの議論および功利主義者トンプソンらとの間でいかなる独自の意義をもつものなのか、また功利主義フェミニズムとまで言い得るものになっているかは、2023年度中に出版される共著の論文集で、公表する予定である。
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