社会経済的地位(SES)が子どもの学力に与える影響を探ることは、経済的不平等の解消と世代間移動の促進に不可欠となる。すなわち、貧困の連鎖を断ち切り、不利な境遇の子ども達が平等な機会を得て、質の高い教育を享受できることに繋がる。 これまで本研究では、社会経済的地位(SES)が学力に及ぼす影響の長期的変化に着目し、PISAとTIMSSという国際学力調査を活用して日本の研究を実施した。PISAでは15歳を対象に読解力、数学、理科の3教科で、またTIMSSでは10歳と14歳を対象に数学と理科で、各々SESの影響を分析した。本研究の特徴は高度な機械学習モデルの導入であり、従来の回帰モデルでは検出困難であった非常に複雑な効果を、調査データから特定可能にした。そして日本のPISA(2003~18年)とTIMSS(2003~19年)の分析結果から、どちらもSESが学力に与える影響が増大していることが判明した。 最終年度では、TIMSSを用いて、同コホートの10歳と14歳の間のSES効果の変化を調べた。これは、①2003年の10歳と2007年の14歳、②2007年の10歳と2011年の14歳など、TIMSSのデータを統合することで実現した。そして概ね学力に対するSESの影響は、4年前に実施されたTIMSSの10歳と比較して、14歳の方が顕著であることが明示された。教育制度(特に義務教育制度)は、学業機会を平等に提供する事で、社会経済的地位(SES)が学力に与える影響を緩和すると期待される。しかし上記結果から日本の教育制度が、10~14歳迄の重要な発達段階において、SESが学力に与える影響を緩和させる事に有効ではなかったと解釈できる。すなわちSESの高い世帯ほど、子どもの学力向上のために塾やその他費用の支出が可能となり、義務教育終了間近の子どもたちの学力に顕著な影響を及ぼす事が示唆される。
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