研究課題/領域番号 |
19K01748
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
高屋 定美 関西大学, 商学部, 教授 (60236362)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非伝統的金融緩和政策 / マイナス金利政策 / 欧州中央銀行 / COVID-19 / 構造VARモデル / ベイジアンVARモデル / インフレーション / 欧州グリーンディール |
研究実績の概要 |
本研究は欧州中央銀行(以下、ECB)が実施している、いわゆる非伝統的金融政策の出口戦略をどのように行うべきなのかを研究するものである。そのため、本年度はECBが実行している金融政策の効果を検証している。また、パンデミック対策のための追加的な量的緩和政策を実行しており、欧州経済への影響を考察している。COVID-19感染拡大の欧州経済への影響を検証するため、2020年にサンプル期間を限定したパネル構造VARモデルを2021年にまで延長して実証している。それにより需要減ショックが供給減ショックよりも大きいことをあらためて観察している。 また、非伝統的金融緩和政策を解除する条件である物価上昇が欧州では顕著にみられている。これは資源価格の上昇によるところが大きいが、資源価格が欧州の各産業部門の平均価格にどのように影響を与えるのかを、シンプルなVARモデルを用いて、予備的な検証を行っている。工業部門、サービス部門ともに資源価格上昇の影響を受けることが見られ、それにより、平均消費者物価指数であるHICPにも正の影響を与えることが推察される。それにより、ECBは金融政策目標である2%近傍のインフレ率達成のため、金融緩和政策を転換し、金融引き締めへと出口を進めるタイミングを迎えている。しかし、COVID-19による影響からの景気後退懸念は継続しており、さらに2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻によるエネルギー供給不安も欧州経済の景気後退懸念を高めている。そのため、景気後退懸念とインフレ率の上昇に直面するECBの最適な出口タイミングを考察するための、シンプルな数理モデルを構築している。 さらに、EUはグリーンディールによる景気回復を試みようとしており、ECBにもその役割が期待されている。グリーンディールの下でのECBによるグリーン金融政策がもたらす課題も考察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在まで、欧州中央銀行(以下、ECB)の非伝統的金融緩和政策の効果を実証し、概ねその結果が観察されている。それを用いて、欧州経済ならびにユーロ圏経済への成長に少なからずプラスの効果が現れていることがわかっている。一方で、その緩和がインフレ率を高めるリスクもあることが実証されている。 ただし、2020年からのCOVID-19の影響が長期化し、現時点でもその収束の見通しが立たない状況である。それに加え、ロシアによるウクライナ侵攻も加わり、欧州の景気後退懸念が高まっている。そのため、ECBの非伝統的金融政策の出口戦略も変更されるものと考えられ、出口を模索するのも困難な状況である。したがって、本研究もCOVID-19の欧州経済への影響とウクライナ侵攻の影響を考慮せざるを得ない。そのため、COVID-19とウクライナ侵攻による欧州経済への影響と、ECBの金融政策の効果に関する予備的な実証研究も現在までに行っており、緩和政策の継続の影響に関する考察を行っている。ウクライナ侵攻といった新しい事態、そしてそれによるEUのエネルギー調達戦略の大幅な変更という不測の事態により、本研究もそれらを組み込んだものにする必要がある。 次年度には、最適な出口のタイミングを求める予定であるが、そのための予備的な考察は本年度において、ほぼ完了しているものと考えられるが、ウクライナ侵攻の影響を実証的に研究するため、データの収集も続ける必要があり、その面でやや遅れが生じていることは否めない。
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今後の研究の推進方策 |
今後、COVID-19およびウクライナ侵攻による経済的な影響が見通せる段階になったとき、あるいはインフレ率の上昇によって欧州中央銀行(以下、ECB)の緩和政策の終了が決まるであろう。本研究では、そのタイミングを予想するため、非伝統的金融政策の最適な出口戦略とはどのような条件が必要なのかを理論的に、また実証的に求める。 非伝統的金融緩和政策は金融機関の財務には負の効果を与えてきており、さらに景気後退懸念とインフレ上昇といったスタグフレーションの懸念が高まってもいる。このような経済情勢の中でECBが金融緩和を転換させうるのか、それとも緩和を継続するのかが、本研究の課題である。そのため、非伝統的金融緩和政策の欧州経済全般に与える効果を再検討し、欧州経済でスタグフレーションが発生したという想定のもとで、ECBが緩和の出口へと切り替えられる条件を考察する予定である。 ただし、次年度になっても欧州でのCOVID-19の収束やウクライナ侵攻の経済的影響が見通せない場合、欧州ならびにユーロ圏での経済回復は遅れることが予想され、ECBの金融緩和政策は継続されるものと考えられる。本研究では、その動向も見極めながら、ECBの緩和政策の出口の考察と、それらの景気後退の要因とはいったん切り離して、理論的な出口のタイミングを検討する。その上で、次年度の状況をできうる限りデータで取り込み、実証的に金融緩和を停止する条件が揃っているのかどうかを検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により、国際学会への出席・発表、およびインタビューのための海外出張ができなかったことが主因である。また、COVID-19とロシアによるウクライナ侵攻の欧州経済への影響と、それへの欧州中央銀行の対策の分析を本研究に取り込む必要も生じたため、研究を拡充する必要が生じた。 そのため、来年度にはオンラインでの国際学会の出席・発表を行い、さらに本研究のための実証分析を拡充するため、データベースの契約をあらためて行う予定である。これにより、当初想定していた成果をより拡充することができる。
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