最終年度に実施した研究の成果は,次の3つが明らかになったことである。1つ目に,社会問題に対する心理的距離が近く,社会問題が「自分の問題になっている」消費者ほど,社会的イノベーションの利益をより知覚し易く,社会的イノベーションの採用意向が高まることが分かった。2つ目に,心理的距離が近くなるほど社会的イノベーションの利益知覚を高めるのだが,この正の影響は心理的距離が高まるほど弱くなることが分かった。3つ目は日本とアメリカ・ドイツでは,心理的距離が利益知覚に与える影響に差があるということが分かった。 研究期間全体を通じて得られた成果は,大きく分けて次の5つのことがわかったことである。1つ目は,エネルギーマネジメントサービスやモバイル決済,環境配慮型製品(Green Product),などの社会と個人の双方に利益を提供する社会的イノベーションの採用意向は,これらに知覚する利益によって高められるが,同時に知覚するコストによって低められるということである。2つ目は,市場に存在する高い機能や性能,高いコストの社会的イノベーションの場合,知覚するコストが採用意向を低めてしまう。一方,必要十分な機能や性能,低いコストに抑えた節約デザイン(Frugal Design)の社会的イノベーションの場合,パフォーマンスに対するリスク知覚が採用意向を低めてしまうということである。3つ目は,社会が危機に陥った場合(例えば,Covid-19),社会的イノベーションの知覚利益が採用意向をより高めるということである。4つ目は,消費者の倫理的意識(Ethical Consciousness)が高い場合や社会問題に対する心理的距離が近い場合,社会的イノベーションの利益をより知覚し,採用意向につながることである。
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