研究課題/領域番号 |
19K01943
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研究機関 | 千葉商科大学 |
研究代表者 |
外川 拓 千葉商科大学, 商経学部, 准教授 (10636848)
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研究分担者 |
石井 裕明 成蹊大学, 経済学部, 准教授 (50548716)
朴 宰佑 武蔵大学, 経済学部, 教授 (50401675)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 視覚的コミュニケーション / パッケージ・デザイン / 広告デザイン / ブランド知覚 / ブランド・トラスト(信頼) |
研究実績の概要 |
2019年度は、視覚的コミュニケーションがブランドや製品に対する評価および購買意図にいかなる影響を及ぼすのかについて、既存知見の把握と整理を行うとともに、実験計画の策定にも取り組んだ。 研究計画書において示した通り、本研究課題では、2年目以降に実験の実施を複数回予定している。これに向け、1年目である本年度は、関連する先行研究を広範にレビューし、概念整理を行った。一連のレビューを通じ、視覚的コミュニケーションについては、Journal of Consumer Research、およびJournal of Consumer Psychologyといった海外学術誌で多くの研究成果が発表されていることが分かった。例えば、消費者の購買意思決定に対して、広告上の製品画像の大きさ、鮮明さ、配置など、様々な要因が影響を及ぼすことが明らかにされている。一方で、近年では、広告画像と視覚以外の感覚(例えば、触覚情報)との影響関係についても注目され始めていることも把握した。 実験計画の策定に関しては、研究代表者の外川、研究分担者の朴と石井に加え、研究協力者であるRajat Roy准教授(Bond University, Australia)にも加わってもらい、具体的な方向性を確認した。すでに探索的に行った視覚的コミュニケーションに関する実験についてAssociation for Consumer Researchの2019年大会で発表するとともに、学会会場にて上記4名の間で議論を行い、次年度に行うべき実験や論文化までのステップについて相互に確認した。 以上のとおり、当初より研究計画書で予定した「先行研究のレビューと概念整理」について、文献レビュー、学会発表、海外研究協力者との議論という3つのアプローチで取り組み、一定程度の成果を得ることができたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、視覚的コミュニケーションおよびブランド知覚に関する文献レビューを行った。これらのテーマに関しては、古くからマーケティング論、広告論、消費者行動論において取り組まれてきたこともあり、豊富な研究知見が蓄積されていることを確認した。とりわけ、視覚的コミュニケーションに関しては、主に広告画像を用いた視覚的レトリック技法、広告画像の視覚的属性(例えば、サイズ、鮮明さ、色彩など)の影響について明らかにされており、ブランド知覚に関しては高級感知覚や本物感知覚に関して多くの研究蓄積が認められた。各研究の結果や潮流に関しては、外川が研究分担者の朴、石井に随時共有したのち、複数回にわたり研究ミーティングを催し、今後の研究の方向性について議論を行った。 さらに、研究協力者であるRajat Roy准教授(Bond University, Australia)とも学会会場での対面、およびビデオ会議システムやEメールを通じた複数回の議論を行った。これにより、ブランド知覚や広告コミュニケーションに関する海外研究の潮流、既存知見を共有するとともに、次年度以降の実験計画や論文化までに行っておくべき課題を明確化することができた。 先行研究レビューに関しては当初の計画通り進行し、期待した成果が得られた一方で、研究計画書で述べた消費者へのインタビューは実施しなかった。当該インタビューは、広告の視覚的特性とブランド知覚に関する研究蓄積が乏しい場合、消費者の傾向を探索的に明らかにするために計画されていた。しかし、先行研究を概観した結果、すでに十分な研究蓄積があることが確認されたことを踏まえ、探索的インタビューよりも、具体的な理論的整序や仮説構築に注力すべきと判断したためである。 以上の事項を総合的に勘案し、本研究課題の2019年度末時点における進捗状況は「おおむね順調に進展している」と結論づけた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に先行研究の広範なレビューを行った結果、視覚的コミュニケーション、およびブランド知覚に関する様々な知見を整理し、体系化することができた。今後は、こうした理論的整序の結果をレビュー論文にまとめ、学会誌または研究紀要等において発表する予定である。これにより、研究代表者、研究分担者、研究協力者の間で既存の理論や知見に関する認識を統一することができるだけでなく、関連分野を専門とする他の研究者に対しても有益な示唆を提供できると考えている。 さらに、文献レビューを踏まえ、仮説の構築と実験の実施に関しても進めていく。具体的には、広告画像の描写内容(重さを感じさせる写真、被写体への遠さを感じさせる写真、など)が、広告ブランドに対する信頼感知覚に対して影響を及ぼすことを仮説として予測し、それらをテストするための実験を複数回実施する予定である。実験においては、クラウドソーシングを用いたオンライン実験を中心に行うことで、研究課題を効率的に遂行するが、必要に応じて学生を対象とした実験室(オフライン)実験も組み合わせることで知見の頑健性も高めていく。ただし、実験室実験の実施に関しては、新型コロナ感染症問題の動向次第で、年度末までの実施が困難となることも想定される。その場合には、オンライン実験を追加したり、実験室実験のみ2021年度に見送ったりするなど、柔軟性を持って対応する予定である。 実験によって得られた結果は、日本消費者行動研究学会をはじめとした国内学会に加え、Association for Consumer Research、Society for Consumer Psychologyといった海外学会でも積極的に発表し、他の研究者からのフィードバックを獲得する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の直接経費400,000円のうち、30,225円を2020年度に繰越すこととなった。これは、物品費の支出が抑制されたためである。当初、2019年度に先行研究レビューを実施するため、書籍(洋書を含む)を複数冊購入する予定であった。しかし、それらのいくつかはハードカバー版などに比べて安価な電子書籍版で入手することができたため、支出額の余剰が生じた。 今回繰越すこととなった助成金は、2020年度において実験実施のための費用に充当する予定である。新型コロナ感染症問題により、当該年度は学生たちを対象とした実験室での実験を行うことが困難となる可能性がある。その場合、代替措置として追加的にオンライン実験を行うこととなり、参加者への報酬やオンライン実験用プラットフォームの利用契約費用など、余分に支出が生じる可能性がある。今回繰越すこととなった助成金を、こうした実験実施に関連する追加費用に充当することで、本課題を滞りなく遂行していく予定である。
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