語り手の高齢化と新型コロナの拡大などにより、思うように聞き取り調査はできなかったが、それでも合計して80人を超える方から沖縄戦と戦後の生活史を聞き取ることができた。これは個人がおこなう聞き取り調査としては相当な規模である。全体としては、このプロジェクトは満足できる結果に終わったと思う。 「生活史」調査の方法論の彫琢も順調に進行した。150人の聞き手を公募しておこなわれた『東京の生活史』(2021年、筑摩書房)では、私自身の生活史の聞き取りの方法論にもとづくものである。本書は毎日出版文化賞と紀伊國屋じんぶん大賞をダブルで受賞した。ほかにも関連する作品として、『沖縄の生活史』(2023年、みすず書房)、『大阪の生活史』(2023年、筑摩書房)がある。特に前者では、私が担当した章で、本プロジェクトで聞き取りをしたひとりの沖縄戦経験者の女性の語りをとりあげた。この語りは論文として同年の『新潮』にも掲載された。そのほか、『所有とは何か:ヒト・社会・資本主義の根源』(梶谷懐共編著)中央公論新社2023年、『岩波講座社会学 第1巻:理論・方法』(筒井淳也・北田暁大責任編集)岩波書店2024年などにも論文が収録されている。 本格的なまとめ作業はこれから何年もかかることになるが、「沖縄と戦後の生活史」調査研究プロジェクトとしては、相応の成果をあげることができたと思う。 また、本プロジェクトは「沖縄的共同体規範」の源流を沖縄戦における「所有権の解体」にもとめるものだが、さらにそうして形成された沖縄的規範が戦後どのように維持され再生産されていくのか、という点を視野に入れた新たなプロジェクトを立ち上げ、2024年度より支給される科研費を得ることができた。
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