研究課題/領域番号 |
19K02060
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研究機関 | 大手前大学 |
研究代表者 |
坂本 真司 大手前大学, 総合文化学部, 准教授 (20425094)
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研究分担者 |
松崎 行代 京都女子大学, 発達教育学部, 教授 (60465854)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地域婦人活動 / 生活改善運動 / 文化芸術サークル / 地域おこし / 農村女性起業 / 人形劇 / 女性の地位向上 |
研究実績の概要 |
2020年度に本共同研究は次の2つのことに取り組んだ。1)生活改善運動経験者である農村女性の、地域おこしの組織的起業活動について、調査結果をまとめた。2)中高年女性たちの人形劇サークル活動をめぐり、都市部の場合について、サークルメンバーへの聞き取りを中心とした実態調査をおこなった。 生活改善運動経験者の農村起業について、坂本は2019年度本共同研究の現地調査の結果をもとに研究成果をまとめた(10.研究発表を参照)。2020年の新型コロナウィルス感染拡大問題は、本共同研究に打撃を与えた。年度始めの4-5月段階で都市部感染問題が深刻化し、勤務校における出張禁止措置から現地調査を中止せざるを得なかった。6月以降は地方での感染拡大が顕著となり、インフォーマントから聞き取りの継続が拒否された。拒否は現在も続いている。調査地社会を徒に混乱させることなく、住民とのラポールを維持するためにも、ほかに候補者を立てて要請するなどの代替的な転換は控えている。 人形劇サークル活動の調査は、研究分担者の松崎が中心に進めた。2020年度は、長野県飯田市での「いいだ人形劇フェスタ2020」にて、女性劇団員らとの公開シンポジウムを開催する予定であったが、コロナ禍を理由にフェスタが中止となった。時期をずらしリモートによるシンポジウム開催を模索し、関係者間で討議もおこなったが、調整がつかず中止となった。 その一方で松崎は、かねて本共同研究で進めている人形劇サークルメンバーへの聞き取り調査を継続させた。2020年度は、都市部のケースに関するデータ収集に努めた。具体的には、首都圏都市部船橋市にある「船橋地区アマチュア人形劇連絡会」の代表者に電話インタビューをおこなった。インタビューでは、同地で開催される「船橋地区アマチュア人形劇フェスティバル」を軸に、フェスティバルに関わる女性サークルの状況について情報を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウィルス感染拡大問題は2020年度の本共同研究で大打撃をもたらした。第一に、研究の基本となる現地調査が年間を通じてほとんどできなかった。坂本による農村高齢女性対象の聞き取り調査の場合、1)都市部大学勤務の研究者からのウィルス感染のリスクがあること、2)高齢者ゆえに感染後の重病化、死亡の可能性が高く大変不安であること、そして3)都市部住民の来村が地域住民からの反感を容易に招くこと、といった複数の理由から、インフォーマント女性世帯から面会が拒否された。 今後も現地調査の実現は不透明である。この点を念頭において2020年度の後半からは、ドキュメント分析に基づく言説研究に着手している。2019年度より坂本は、伊賀市内の被差別部落の高齢女性の識字学習グループにて聞き取り調査を始めた。部落差別と女性差別の複合差別状況下における農村女性の地位向上について、識字学習グループ(文化サークル運動)を事例にした現地調査を進めた。だが、コロナ禍で当のグループ活動は休止状態となり、現地調査は不可能となっている。そこで部落解放運動団体の各種文献から女性たちの運動や生活に関わるテキストを検討し、データの収集に努めているところである。今後も現地調査が困難となれば、今いったドキュメント分析に一層比重を置くことを考えている。 一方で、人形劇サークルの調査では、2020年度中に開催予定とされたシンポジウムが、シンポジウムを企画の一環としていた「いいだ人形劇フェスタ」の緊急の中止を受けて、併せて開催中止となった。代替的なリモート開催について討議されたが、方法面などで具体的な計画を緊急事態下で短期間にまとめることは大変難しく、調整が間に合わない形でやむなく中止せざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で述べたとおり、2020年度に本共同研究は、年間通じて基本的活動となる現地調査が計画通りにいかず、進行が大幅に遅れてしまった。そこで本共同研究では、代表者の坂本が担当する調査研究と、松崎が担当するそれとで各々次のような構想の下で、研究の推進を図りたい。 坂本の伊賀市調査に関しては、「7.現在までの進捗状況」で述べたように、2020年度途中からドキュメント分析での調査研究を導入し、研究課題に則りながら、研究の方向性を変容させることで事態の打開を図っているところである。今後は、今いった研究アプローチの転換の下で、全体としての研究上の遅れを挽回したいと考えている。 一方で、松崎が担当する人形劇サークル参加女性の調査に関しては、2021年度においても、人形劇サークルメンバーたちによるシンポジウムの開催が最重要課題となる。そのため、以下のように代案を含めたシンポジウム計画案を関係者に提示し、理解を得ている。目下討議を経て具体案策定を進めている。 1)2021年8月予定「飯田人形劇フェスタ」現地開催決定の場合、フェスタ期間中にシンポジウムを開き、開催から得られる各種データ、開催前後の各種調査でのデータを得て研究を進める。2)フェスタが中止と決まった場合、日本UNIMA(国際人形劇連盟日本センター)ならびに「いいだ人形劇フェスタ」事務局の協力(確約済)を得て、リモート開催とする。時期は10-11月中に、シンポジウム登壇者は飯田市の会場に集まり、そこから遠隔会議サービスを用いてウェブで全国の観客と会場をつなげる形をとる。中高年女性が主な参加者になると予想され、ITを用いた遠隔方式での進行が問題なくできるよう、かねてより同方式でのイベント開催の経験をもつUNIMAから大々的な協力を得ることとなっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大問題から本共同研究では、現地調査における聞き取り調査拒否に直面するなど、計画に基づく研究の継続で大きな狂いが生じた。2020年度は、現地調査がほとんどできない状況に追い込まれることとなった。ゆえに伊賀市での生活改善運動に関連する調査、ならびに人形劇サークル調査の両方において、特に旅費・交通費において未使用額が少なからぬものとなった。シンポジウムに関連するところでは、当日参加者の旅費・交通費はもとより、事前、事後会合を含めた現地調査での費用に関しても未使用となった。 感染問題の収束時期によって方向性に変化も出てくるが、2021年度においては、坂本の調査研究に関しては、安全面に十分配慮した上で、必要に応じて各地の図書館、資料館に出向き、関連資料の収集に費用を適正に当てたいと考えている。松崎の調査研究においては、シンポジウム開催に向けて、リモート開催となった場合に、必要なハードウェアの調達ほか各種準備において、適正かつ効率的に費用を活用したいと考えている。
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