本研究は、苦い野菜に調味料を添加することで食べやすくするといった、味付けによる嗜好の変化を生理学的な根拠を示すことを目的として行った。具体的には、味の混合による嗜好性の改善が、味の情報伝達過程においてどのような作用機序で起きるかについてと、味付けが食品成分の消化吸収やストレス応答にどのように影響するかを解明し、味付けによる嗜好性の改善が生体に及ぼす影響を調べることを試みた。本年度は、スパイスの混合による辛味の制御について検討し、モモや乳製品の香気成分であるラクトン類の中には、唐辛子の成分であるカプサイシンやワサビの成分であるアリルイソチオシアネートの辛味を低減させる効果があることを見出した。これらは、ラクトン類の香りにより食品がやさしい味に感じられる原因が、香りだけでなく口腔感覚の刺激緩和にも由来する可能性を示唆している。また、本年度は、人試験を行って、味と香りの混合によるストレス応答の変化について解析した。その結果、酸味への香りの混合と、甘味への香りの混合では、唾液中のストレスマーカーであるアミラーゼの濃度変化の傾向に差異があることを観察した。このことは、味付けや香りづけが生体に及ぼす影響は、その食品の主となる味の種類によって異なることを示唆している。昨年度までのマウスを用いた研究と、本年度の受容体分子、人試験を総合して考察することで、今後、生体への影響加味した食品の味付けへとを開することが期待される。
|