研究課題/領域番号 |
19K02429
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
久井 英輔 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (10432585)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会教育 / 団地 / 新中間層 / 自治会 |
研究実績の概要 |
今年度は、高度成長期の団地住民の間で自治組織と住民運動が生起した背景を概観し、またその動きと並行して生起した学習・文化活動の様相を記述していく作業を中心に行った。 高度成長期における団地自治会は、「町内会」/「自治会」という二項図式を用いて、主にその後者の性格を有する組織として同時代の研究者らは把握していった。すなわち明確な目的を持った「機能的集団」としての性格であり、行政との結びつきの強い従来型の町内会とは、大きく異なる組織として捉えられていた。このような団地自治会の特徴は、高度成長期後半以降になると、その限界や問題性よりもむしろ民主的な連帯のあり方としての可能性をもつものと認識されていくようになった。 このような団地自治会の活動状況と関連しつつ、当時の団地においては、自治会活動の一環として学習・文化活動が展開されたり、自治会から相対的に独立した形でそれらの活動が展開されたりするケースがそれぞれ見られた。これらの取り組みは、地域課題解決のための学習活動とともに、住民間の「親睦」の場としても意図されていたことを明らかにした。 当時の団地における学習活動と社会教育行政との関連性をみると、社会教育行政事業としての婦人学級を団地自治会主催の学習活動と位置づけて行うケースが特に多く見られたが、団地住民の学習活動と社会教育行政との距離感は一様ではなく、新中間層中心の住民の高度な学習活動に対して社会教育職員が指導・助言を行うことの困難が表面化する事例も見られた。当時の社会教育行政が当時の団地住民の学習活動に対して果たした役割は、必ずしも全面的、中心的なものではなかったが、他方で、住民の学習活動と社会教育行政の事業とを一律に対立的に捉えたり、前者を後者が抑圧していると概括したりすることも、当時の状況の多様性をあまりに捨象した見方であるということを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、図書館資料や団地自治会資料などの収集のための出張が長期間にわたって行えなくなったため、今年度はすでに昨年度までに収集していた断片的な資料を中心とした試論的な考察を行うにとどまらざるを得なかった。また、同感染症の影響によって、大学の講義・演習のほとんどをこれまで対応したことのないオンライン方式で実施しなければならなくなったため、かつ、その対応方法も感染状況の変化に応じた大学の方針により頻繁に切り替わったため、大学での教育業務にかかる時間が例年と比較して大幅に増大し、研究作業に避けるエフォート自体を大幅に縮小させざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
旧・日本住宅公団が高度成長期に設置した団地(いわゆる公団住宅)の近隣地域をフィールドとして、団地の当該自治体社会教育担当課の保管資料、当該地域の公民館報、団地地域で実施された婦人学級・成人学級に関連する資料、などを中心に収集する。 これらの資料を基にして、高度成長期の団地においてどのような社会教育実践が試みられ、またそれに参加した団地住民の意識・行動がどのように変容していったかを明らかにする。これに加えて、当時の団地における社会教育実践には行政主導/住民主導という違いが地域によって見られたことを踏まえ、この相違が実践の成果・課題にもたらした影響も併せて考察の対象としていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、図書館資料や団地自治会資料などの収集のための出張が長期間にわたって行えなくなった。また、同感染症の影響によって、大学の講義・演習のほとんどをこれまで対応したことのないオンライン方式で実施しなければならなくなったため、かつ、その対応方法も感染状況の変化に応じた大学の方針により頻繁に切り替わったため、大学での教育業務にかかる時間が例年と比較して大幅に増大し、研究作業に避けるエフォート自体を大幅に縮小させざるを得なかった。 以上により、もともと予定していた使用額を大幅に下回る金額しか使用できない状況となった。2021年度については、当初2020年度に実施する予定であった研究作業、具体的には、団地の当該自治体社会教育担当課の保管資料、当該地域の公民館報、団地地域で実施された婦人学級・成人学級に関連する資料、などの収集とそれを基にした分析・考察のために、助成金を使用する予定である。
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備考 |
内閣府/総合科学技術・イノベーション会議のエビデンス事業の一環として、本研究の概要・意義を説明したwebページ。
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