今年度は、高度成長期の横浜市における公団住宅をフィールドとして、住民の学習活動の活性化に社会教育行政がどのように関わっていったか、またその働きかけがどのような帰結をもたらしたかについて、当時の婦人学級を中心に考察した。検討にあたっては、①当時の社会教育関連雑誌に掲載された婦人学級実践報告、②市教委が発行した団地対象調査報告、婦人学級実践報告、③団地自治会が発行した自治会報・記念誌、④首都圏の団地対象広報紙『The KEY』、の四つの資料群に基づいて分析・考察を行った。 検討の結果、第一に、横浜市教委が団地住民を「新しい住民」の典型とみなし、自治体において新たな地域社会形成を模索していく上で重要なターゲットとしていたという点を明らかにした。第二に、社会教育行政からの働きかけとしては、住民の学習グループへの直接のアプローチも行われていたが、団地自治会へのアプローチの方が正攻法として認識されていたことを明らかにした。第三に、婦人学級の学習内容は、しばしば社会教育行政の課題意識を直接反映させたテーマ設定となっていた点を明らかにした。第四に、婦人学級の学習テーマや学習方法について、異なる考え方の間のせめぎ合い、意識の温度差が存在していた点を明らかにした。たとえば学習テーマは公共的であるべきとする認識や、共同学習を通した人間関係形成という理念について、関係者の間での温度差が存在していた。 総じて、高度成長期の団地住民の学びはこれまで、住民自治や住民運動と結びついた側面から語られてきた。これに対して本研究では、行政が想定していた公共的テーマに沿う学習活動も推進されており、住民自治・住民運動とも重なり合いつつ展開していたことを明らかにした。これに加え、「個人的関心に基づく学び」への強い志向が同時に発現しつつあり、それへの対応をも社会教育行政が求められていたという点も明らかにした。
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