本年度は、これまでに研究を進めてきた日本の植民地統治下における学校教員、とりわけ初等教育レベルの学校(小学校、公学校)の教員をめぐる制度の概要と展開を踏まえ、教員個人がどのような形で自らのキャリアを形成し、それが植民地統治という政治的・社会的現実のもとでどのような意味を持っていたのかを明らかにするために、研究を進めた。 具体的には、台湾総督府の公文書である「公文類纂」所収の人事資料から小学校および公学校に配属された日本人および台湾人教員の履歴を調査・整理し、彼らの教員としてのキャリアに関する社会的属性、およびキャリア形成の傾向について整理・分析をおこなった。また、教員としてのキャリアのなかで、どのような教育活動を展開していたのかということを明らかにするために、当時の台湾で唯一の教員団体であった台湾教育会の機関誌『台湾教育会雑誌』『台湾教育』に掲載されている署名入り記事を調査し、教員の社会的言動について分析した。 以上の研究調査を含め、研究期間全体を通じては、日本による植民地統治下の台湾における教員の位置づけについて、これまで十分に明らかにされてこなかった、(1)教員配置をめぐる制度の変遷、(2)教員団体の具体的な教育研究活動とその社会的意味、(3)教員個人のキャリア形成が持つ植民地的意味、という3点について明らかにすることができた。これらの研究成果のうち、(1)および(2)については、すでに学会発表および研究紀要などに公表しているが、(3)については一部は学会発表をおこなったが、COVID-19のパンデミックにともなう研究活動の大幅な制約によって研究計画の遂行が遅れたことにより、現在、活字化に向けた準備を進めているところである。
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