研究課題/領域番号 |
19K02756
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
杉崎 哲子 静岡大学, 教育学部, 教授 (30609277)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 書字活動 / 手書き / 書写 / 書道 / 板書 / ICT / 国語 / 文字文化 |
研究実績の概要 |
本研究では、「板書」と児童自身の「書字」とを併せて取り扱い、国語の定番教材を中心とした授業展開での書字活動の効果的な生かし方を検討した。<読み>の授業では「話し合い」による子どもの<読み>の変容や交流による「読み深め・読み広げ」が重要であり、その授業の「板書」には、充実した話し合い活動を成立させて「学び」を支援する役割が求められる。話し合いでは「思考ツール」の活用が奨励されているが、そのツールに個々の学習者の思考が記されなければ意味がない。ワークシートやノートには、個々の思考を「手書き」で可視化し、その上で、全体共有の際に、ICTを活用して「ツール」を板書に組み込むと効果的である。各ツールの特徴を理解し、発達段階に配慮して、系統的に使用の時期や場面を考える必要がある。 書表現に関しては、「書の古典」の文字の印象を学習させたAIに筆文字を診断させ、その結果をふまえて、筆文字のどのような特徴が印象に影響するかを分析した。書かれた文字は、形、墨色、線質、空間処理や構図などの特徴を総合し、人間の心性をも表出する。AIは書かれた結果である文字の印象を捉えることはできても、それを書く過程における人の感覚は捉えられない。書は文字の意味を含めて「表現」し「印象を表す言葉」の中にも自分の経験や感覚を重ねている。 毛筆に限らず、文字を手書きすると動きを伴って「意味のある字」が可視化され印象も具象化できて他者に向けてのメッセージとなる。このことは板書や学習者の書字活動とも共通しており、この機能を生かして地域貢献事業も成功させることができた。文字文化とは、文字による具象化を契機に言葉を紡ぐ活動の歴史であるといえるだろう。 学校現場に導入されているソフトやデジタル教科書などのICTの活用場面についても検証し、書表現を追究することによって、改めて文字や文章を書くことの意義と可能性を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ICTの活用によって、これまで授業後に回収して次時に生かしていた「記入済のワークシート(ノート)」を、授業内に即時、大黒板やスクリーンに投影して全員で共有できるようになった。PC やタブレット上で授業を進めることは可能だが、長文や沢山のテキストボックスが投影された時、その記述一つ一つに注目するのは困難であるため、「板書」が有効に機能する。交流が自分勝手な読みの主張の場にならないよう、子どもたち一人一人の<読み>の力を育てるために、個々の思考を大事にし、意見をどう取り上げて「板書」するか、教員の力量が求められる。また、理科的な教材の<読み>には補助的に資料データが、紀行文では自然の映像が情景描写の手助けになる場合があるものの、得られる情報が多いという利便性は、逆にリスクにも成り得る。言葉の意味や文章の読解力を育成する時に、全ての情報が有意に機能するとは限らず、資料や写真だけで判断してしまって言語との結びつきが希薄になる場合も考えられる。 そこで今後は、特に「言葉の意味を読み取ること」と書字との関係性に焦点を当てて追究する。また、文字情報を提示する場合に使用するフォントについても、それぞれの特徴を明らかにしたい。授業の展開を助けてくれる便利なアプリも幾つか登場しているが、それらの使用が目の前の子どもたちにとって有効であるかを見極める必要がある。ICT 化は、ハードやソフトを「つかう」段階から、「つかいこなす」段階に突入し、「学びに向かう力」の育成にむけて「生かす」時代を迎えている。 国語の授業に関しては、特に共有の場面での ICT の効果的な活用について引き続き追究し、 手書きの書字活動が重要な箇所や場面を精選したい。書字体勢に関しては「望ましい持ち方」による筆圧調整の利便性について、また左手書字の体勢については筆記データを収集して再度検討を加えていく。
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今後の研究の推進方策 |
ICTの活用によって、これまで授業後に回収して次時に生かしていた「記入済のワークシート(ノート)」を、授業内に即時、大黒板やスクリーンに投影して全員で共有できるようになった。PC やタブレット上で授業を進めることは可能だが、長文や沢山のテキストボックスが投影された時、その記述一つ一つに注目するのは困難であるため、「板書」が有効に機能する。交流が自分勝手な読みの主張の場にならないよう、子どもたち一人一人の<読み>の力を育てるために、個々の思考を大事にし、意見をどう取り上げて「板書」するか、教員の力量が求められる。また、理科的な教材の<読み>には補助的に資料データが、紀行文では自然の映像が情景描写の手助けになる場合があるものの、得られる情報が多いという利便性は、逆にリスクにも成り得る。言葉の意味や文章の読解力を育成する時に、全ての情報が有意に機能するとは限らず、資料や写真だけで判断してしまって言語との結びつきが希薄になる場合も考えられる。 そこで今後は、特に「言葉の意味を読み取ること」と書字との関係性に焦点を当てて追究する。また、文字情報を提示する場合に使用するフォントについても、それぞれの特徴を明らかにしたい。授業の展開を助けてくれる便利なアプリも幾つか登場しているが、それらの使用が目の前の子どもたちにとって有効であるかを見極める必要がある。ICT 化は、ハードやソフトを「つかう」段階から、「つかいこなす」段階に突入し、「学びに向かう力」の育成にむけて「生かす」時代を迎えている。 国語の授業に関しては、特に共有の場面での ICT の効果的な活用について引き続き追究し、 手書きの書字活動が重要な箇所、場面の精選をしたい。書字体勢に関しては、望ましい持ち方による筆圧調整の利便性について、また左手書字の体勢について、筆記データを収集して再度検討を加えていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染防止対策により、当初計画の通りには進められず変更を加えた。書字支援に関する対面での調査は学生の協力が得られず実施できなかった。また、海外だけでなく国内の出張を断念し、協力校における授業実践もかなわなかった。ただ、こうした状況でも可能なことに全力で取り組もうと考え、既に報告されている授業実践を取り上げたり扱う教材を絞って収集した情報の一つ一つを丁寧に分析したりして、極力出費を抑え、次年度に繰り越し集中して取り組めるようにした。 次年度には、書字支援に対しては筆圧調整の観点から、タッチペンの仕様については重心や軸径などの視点からの調査実験を対面で行う。継続中の左手書字の体勢については、被験者を増やし、書字支援ツールと併せて検証する。書表現については、引き続きAIによる診断結果の分析を行い、特に感情表現との関係性を明らかにしていく。従って、画像データの処理を依頼することになる。感情表現の言葉に着目して日本語の言葉の豊かさを確認するこれによって、国際化社会におけるコミュニケーション能力の育成に寄与できると考えている。これについては、できれば教育現場の協力を得て進めたいと考えている。
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備考 |
「ひらめき☆ときめきサイエンス-書とプログラミング」を中高生を対象に実施し、「しずおか中部連携中枢都市圏地域課題解決事業」静岡市高齢者福祉課「人生100年時代、高齢者の地域活動・社会活動を応援したい!」静岡市高齢者福祉課との共同事業として『繋ぐ・私たちの言葉-静岡を笑顔に』では、100名を超えるシニアの方と「守りたい」を書に表し短歌作りで交流した。
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