研究課題/領域番号 |
19K02796
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
高見 仁志 佛教大学, 教育学部, 教授 (40413439)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 実践知 / 新人教師 / PCK理論 / 音楽科授業 / コロナ禍の音楽教育 |
研究実績の概要 |
2015年に中央教育審議会が,「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について―学び合い,高め合う教員育成コミュニティの構築に向けて―」という答申を発表したが,この内容を検討しながら取り組みを進めた。この中央教育審議会答申(第184号)に大きく関わるPCK理論を視座として,音楽科における新人教師教育の方向性を整理した。また,PCKは教師の実践知であるとの立場から,その構造モデルを提示した。これらを基盤として,音楽科授業を行う新人教師の実践知分析をPCKの観点から実施した。その結果,調査対象者の実践知は6種にカテゴライズできた。そこから得られた示唆を手がかりに,新人教師教育に対して三つの観点(①状況と対話する能力を高める,②音楽科特有の実践知を視野に入れる,③新しい養成教育カリキュラムの開発)から提言を試みた。 また,PCK理論を視座として上記答申を解釈し,教科の立場から教師教育の方向性を整理した。さらには,PCKは教師の実践知であるとの立場から,音楽科授業における新人教師の実践知を解明し,教師教育への提言を試みた。 未曽有の悪疫,新型コロナウイルス感染症が,音楽教育においても衝撃を与えたことに関して,「教師教育/教職支援としての音楽教育」のテーマのもと,教師の実践知に関して研究を進めた。2020年6月に入り,多くの学校が再開され,演奏活動も再開され,「新しい生活様式」が求められる中,アフターコロナの音楽教育はどうあるべきか,大きな課題とした。具体的には,「研究者が提案するコロナ禍の学校音楽教育のあり方や方法論と,現場教師が試行錯誤する教育実践が,乖離することがあってはならない」「今こそ,両者を密接に関連させ,協働して本質的な音楽教育を実現させることが重要である」といった内容である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により,対面でのインタビュー等ができない時期が長かったのが最大の理由である。遠隔の調査は,タイムラグが生じ,ジャストタイムで音楽の流れ等を共有せねばならない音楽科授業を基盤とする本研究には,おおきなブレーキとなった。ただし,コロナ禍を逆手にとって,横須賀(1976)の「予定調和論」「縄張り無責任論」を引きながら,協働の視点に欠ける音楽教育研究の不毛を明示することはできた。コロナ禍の音楽教育研究者と現場教員の間に,「研究者はコロナ禍の音楽教育研究に取り組め。教員はよい実践を模索せよ。二つの協働は,そのうちなされるだろう」といった類の論が跋扈することを危惧する論調で教師の実践知に関して提言を行うことができた。しかし,これらの取り組みは,コロナ禍によって研究を大きく転換せざるを得なくなった産物であるため,本来の研究テーマである,申請者の研究(高見,2014)の積み上げを想定し,それと同条件の教職経験20年以上の教師に対する分析を,方法論も含めてコロナ禍に即したものとして修正しながら行うことについてまだ模索を余儀なくされている点から,やや遅れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
新人教師の音楽科授業映像を詳解しながら,教師の発話プロトコルを分析し,熟練教師の実践知を顕在化する。熟練教師と新人教師の比較を通して,とりわけ両者に大きくズレが生じる事象および認知の質的な差異に関して,実践知の重層構造の観点から分析を進める。しかしながら,コロナ感染症の影響も想定し,今年度までに取り組んできた,PCKの観点からの実践知研究を進めていくことも大いに視野に入れたい。PCKの観点から,さらに新人教師の音楽科授業における実践知を検討し,提言(高見,2014)を融合させ,音楽科における新人教師育成プログラムを提示する。それには,他教科の先行研究をも援用した上で,今回の研究を個別事例の範疇ではない汎用性あるものとして結実させる方向性も見据えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症が蔓延したことにより,予定の旅費等の使用を変更せざるを得なかった。その分は遠隔での研究等へ変更して調整してきたが,次年度使用額が生じる結果となった。次年度は,コロナ感染症の様子を見ながら,実践知調査のための旅費を使用したり,状況によっては,さらに遠隔における研究の費用にあてる。
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