最終年度である2023年度は、これまでの文献およびネット情報に基づく作業を継続して実施するとともに、国際比較の観点から、我が国における大学のアカデミック・ガバナンスに影響を及ぼしてきた高等教育政策の変化について、特に国立大学法人化の20年が国立大学の凋落や日本全体の科学技術の低迷をもたらしてきたこと、その状況を打開するために大学への基盤的財政配分や自由を担保すべきであることを明らかにした(The 29th Taiwan Forum on Sociology of Education基調講演)。 本研究課題による研究期間全体の成果としては、豪州における高等教育政策の動向、とりわけ大学ガバナンス改革の歴史的経緯やそこで議論されてきた論点を整理し、①豪州の高等教育は、1980年代後半のドーキンズ改革を契機に30年間でマス化、国際化、市場化が進行し、高等教育システムの準市場化としての「現代化」が進んだこと、②1990年代以降、システム・レベルでの政策形成のあり方(連邦政府と大学の関係性)が変化する中で、機関ガバナンスの改革が推進され、機関ガバナンスの規模縮小と効率性向上が推進されたこと、③大学の機関ガバナンスをめぐっては、責任組織の規模・構成・人材育成、経営主義の拡大とその影響、アカデミック・ボード等によるアカデミック・ガバナンスの機能低下に関する議論が展開されたものの、近年は急速な環境変化(コロナ禍を含む)が生じる中で高等教育ガバナンス自体の困難性が高まりつつあることを明らかにした。
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