研究課題/領域番号 |
19K02908
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
吉川 一義 金沢大学, 学校教育系, 教授 (90345645)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ASD / 自尊感情 / 重要度評価 / コンピテンス評価 / 価値判断 / 事実判断 / 具体的対処方略 |
研究実績の概要 |
本研究は、通常教育における特別なニーズのある児童(要支援児)と他児の相互交流を促す学級経営の原型を当事者の個別性の観点から構築する。この基盤的知見を得る目的で、①A小学校の1年生~6年生670名を対象に「Q-U」を行ない、学年進行に伴う自己認識の変容を2019年度から継続して検討してきた。2021年度も3年目として実施した。併せて、②誰から評価されたいかとの質問紙調査を行った。その上で、③4年生のASD児を抽出し、学校生活での行動観察、作文やテストなどの著作物、自尊感情評価の質問紙調査とこれに基づく半構造化面接を行い、事象に対する自自治判断と価値判断、自己評価への影響因を探った。 結果、自己認識につて、3~5学年にかけて承認意識の低下が見られ、過去2年間の結果が支持された。また、3年までは親や教師からの評価を重視して自己認識を得るのに対して、4年生以降は級友の評価を重視する傾向となった。これより、承認意識について、3年生までは過去の自分との比較により評価して能力伸長による肯定感を感じ、4年生からは他者との比較により「できる・できない」ことの価値判断により否定的自己像を得ることが危惧された。抽出したASD児の自尊感情評価の傾向では学業、友人、行動領域の重要度が高く、学業以外の領域は現状に満足していた。学業については重要度が高いが、コンピテンスが低い結果となり、このギャップが自尊感情を低める要因となった。聞取りでは「もっと頭よくなりたい。頭いい方が良い」と発言があり、学業への向上心は伺えたが、授業中の行動やテストの結果に努力は反映されなかった。そこで「頭がよくなるにはどうすればいい?」と問うと「授業を聞く、勉強をする」と答え、具体的な方略に言及はなく、具体的な目標と実行方略が立てられない問題が考えられた。行動結果に対する価値判断を優先し、事実判断がないことが問題と思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
小学校期の子どもは、1年~6年にかけて大きく発達的変化を遂げる。本研究はこの時期の発達的変化について、特に自己を理解する能力と他者を理解する能力(以下、自他理解の能力と略す)の獲得の観点から接近するものである。この基礎資料として、学校生活における学年ごとの自他理解能力の特徴を抽出する必要がある。その上で、要支援児童の自他者理解を探るため、2019年度より引き続き、2021度も学年進行に伴う自己認識のあり方について、その観点と判断の特徴を検討してきた。従来の発達心理学の知見は、諸能力の質的変化点としての発達段階に言及してきたが、自他理解の能力が学年進行に伴い如何に変容するかの知見は見当たらない。学校の教師には、この観点からの知見が学習指導のみならず、対人関係形成と調整の指導を含め、学級経営に必要かつ有効な情報となる。特別な支援を必要としない児童の特性をより詳細に抽出することで、対比効果として要支援児童の課題を析出できる可能性がある。このような基礎資料にあたる質問紙調査資料の蓄積は順調に進み、当初より狙った知見を得ることは順調に進んでいる。 一方、要支援児童の事例を増やしつつ検討を重ねたいが、学校生活上で困難を抱える事例を抽出して半構造化面接などの方法により、個別の視点からの事象理解を補足するための事例資料を収集する機会が不十分であることから、進捗状況として遅れていると判断した。遅れている要因には、コロナによる散発的に生じた一時的休校や感染予防対策による児童との接触機会の制限がある。この制約事態は当面継続することも予想されるため、個別事例に対する資料収集方法の再検討が必要となった。児童と接触せず質問紙で資料収集する方法で代用する可能性を探り、追加質問が必要な場合に個別面談の機会を求めるなど、限られた接触機会を有効に活用する方法を検討しながら進める。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ感染による一時的休校や感染予防対策による児童との接触機会(個別面談や学級での行動観察)が大きく制限されたことが研究の遂行を停滞させた要因である。この事態は当面継続することも予想されるため、個別事例に対して、接触せず質問紙で資料収集する方法で代用する可能性を探り、追加質問が必要な場合に個別面談の機会を求めるなど、限られた接触機会を有効に活用する方法を検討しながら研究を進める。また、同様に研究協力者との対面での検討会や現場教員との検討会・意見交換会の機会も制約を受けている。これについてはWeb会議の方法により、一定解消できる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大防止の観点から、研究協力者との対面での検討会のための旅費や研究者を招聘して現場教員との成果発表会と検討会及び意見交換会を実施できなかった。これら研究結果に関する吟味検討を対面で行うための旅費等の費用を使用しなかった。この経費を、次年度の学級集団分析の実施を年2回(10月と2月)から年3回(6月・10月・2月)実施することに充当し、児童の自他理解変容についての知見の精度を高めることに使用したい。
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