研究課題/領域番号 |
19K02984
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
岸 磨貴子 明治大学, 国際日本学部, 専任准教授 (80581686)
|
研究分担者 |
青山 征彦 成城大学, 社会イノベーション学部, 教授 (60337615)
今野 貴之 明星大学, 教育学部, 准教授 (70632602)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | アクターネットワーク理論 / インプロ(即興演劇) / パフォーマンス / ニューマテリアリズム / エージェンシー / 学習環境デザイン |
研究実績の概要 |
ほぼ予定通り、文献調査、アクションリサーチ、教材開発を進めることができた。 文献調査について、アクターネットワーク理論(Actor Network Theory:以下ANT)が援用されている文化人類学、文化地理学、フェミニズム研究にも文献調査を広げ、それら関連書籍や文献を読む研究会を立ち上げ、定期的に実施している。さらに、近年、ドゥルーズの思想に強い影響を受けたニューマテリアリズムと総称されるアプローチが形成されつつあるが、その中にANTの影響を受けたものも多く見られるため、そうした近年の潮流との関連についても検討を進めている。文献研究の成果として、青山(2022)では、スポーツ研究の一環として、パラリンピックにおける代表的なアスリートであるマルクス・レームを題材に、ANTの立場からエージェンシーについて議論した。 アクションリサーチとしては、2020年度の実践(屋久島の高等学校と大学生によるオンラインでの協働実践)を、教員に視点を置いた研究(菊池・今野・岸 2022)と学生に視点を置いた研究(久保・岸 2022a, b)として発表した。新たな実践研究として、VR/ARを活用した取り組みを始めた。学生らが経験したことがない、やりかたがわからない活動をいかに協働しながら実現していくかについてエスノグラフィックな調査を通してデータを収集している。その様相を振り返りの観点から分析したものを岸・青山(2022)が中間報告として発表した。 教材開発については、学習者のエージェンシーが発揮される学習環境デザインについて、動画コンテンツを制作、配信した。また、エージェンシーを発揮する場のデザインについて、実践者がその概念を学び実践できるようになるため、その具体的なアプローチ紹介するウェブサイトを構築し、さらに、月に1度(第1日曜日)にオンラインでワークショップを実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,ANTを理論的枠組みとし高等教育の学生がICTを活用しながら即興的・協働的に知識を構築していく教育環境を構成する社会-技術的ネットワークの構造を明らかにすると同時に,その環境を作り変えたり,生み出したりするための資質・能力(エージェンシー)を高めるための教育環境を開発することである. 現在までの進捗状況として、すでに「ICTを活用しながら即興的・協働的に知識を構築していく教育環境を構成する社会-技術的ネットワークの構造を明らかにする」研究を2019年2021年度の3か年にわたり実施し、その研究成果を発表してきた。2021年度に取り組んだアクションリサーチは次の3つである。ひとつは、オンライン授業を経験した学生たちの学びに対する意識と態度の変容である。オンライン授業を経験し、学生らが自らの学習環境をどのようなプロセスを経て構築していったかについて明らかにした。2つめは、VR/AR技術を活用したワークショップの開発である。学生らが最新のテクノロジーであるVR/ARを活用してワークショップという活動を生成するプロセスを調査し、その実現を支える社会-技術的ネットワークの構造を分析した。3つめは、オンラインでの振り返りに関する研究である。オンライン上で経験の共有をすることが学生の学習活動での思考や経験とどのように相互に関連していたかを明らかにした(岸・青山 2022)。 また、2021年度に、最終年である2022年に実施する予定であるフィールドワークの実践準備を始めた。新型コロナ感染拡大防止の観点から2020年度から予定をしていた国内外のフィールドワークの実施を延期していたが、2022年度に、鹿児島県屋久島と神奈川件真鶴でフィールドワークを実践できるように調整、準備を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年では、主に次の3つを行う。 第一に、本研究を通して最終的に絞られた次の2つの問いを軸とした文献レビューである。まず、学生のエージェンシーをパフォーマンスとして捉え、新しい活動をデザインする概念的道具としてANTをどのように活用できるかを検討する。ANTは、もともとホタテの養殖や新交通システムの開発、パスツールによる種痘の発明といった活動を採り上げて、そこで生じた関係を時間軸に沿って分析していくという方法論であり、新しい活動を生み出すものとは考えられていなかった。しかし、ラトゥールによる『社会的なものを組み直す』では、現在の実践で生じている結合とは異なる結合を考えることで新たな実践を生み出す可能性が議論されている。そのため、ポストアクターネットワーク理論とも称されることのある近年のANTの展開を踏まえて、エージェンシーを従来よりもダイナミックに捉え、パフォーマンスとして位置づけ直す可能性を模索したい。もともとのANTでは、エージェンシーはさまざまな関係から生み出された効果と位置づけられているが、このような見方では、新しい関係を生み出そうとするエージェンシーはうまく扱うことができない。パフォーマンスという見方を導入することにより、エージェンシー概念のアップデートを図る。 第二に、2021年度の進捗状況で報告した実践を事例とした研究成果の執筆を行う。具体的にはANTの理論的枠組みから「VR/ARを活用した学生主体の活動の生成プロセス」「オンラインでの振り返りの多義性」についてまとめる予定である。 最後に、本研究が当初予定していたフィールドワークを事例としたアクションリサーチである。2022年度では感染対策をとることで、大学によるそれらの制限が緩和されたことから、鹿児島県と神奈川県でフィールドワークを実施する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究が当初予定していたアクションリサーチのひとつに、国内外のフィールドワークの実践がある。しかしながら、2020年からコロナ感染拡大防止の観点から実施できず、国内外の出張に関する旅費を執行できなかった。2022年度には、コロナ感染対策の上、実施ができる見通しであったことから、延長し、国内でのフィールドワークを事例としたアクションリサーチを行うことにした。 また、学会などがすべてオンラインで実施となり、出張のための計上していた旅費を全く執行しなかった。一方で、オンラインを活用した実践研究をはじめることができたため、新たな実践研究のためにそれらを利用することにした。
|