研究課題/領域番号 |
19K03169
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
伊藤 靖夫 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 准教授 (70283231)
|
研究分担者 |
小山 茂喜 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 教授 (10452145)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 理科教育 / 実習・実験 / 遺伝リテラシー / 交配 / 子のう菌類 / アスペルギルス |
研究実績の概要 |
本研究では「遺伝子によって決定される形質が,世代を通じて伝達される様子を実感できる実習プロトコル」を作成し,中学校,高等学校,及び大学において実践することによって,遺伝リテラシーの向上につなげることを目的としている。2021年度には,前年度の実習時の作業を詳細に検討し,問題点を洗い出して対策を講じたうえで,中学校と大学において交配実習を実践した。信州大学の一年次共通教育科目「遺伝学入門ゼミ」の一部として実施した実習では,交配後の後代の分離比の統計的解析までを含め,受講生自身の手で想定した結果を得ることができた。また,適宜アンケート調査を行い,受講生の理解の状況を確認しつつ進行するとともに,結果の予測と検証から遺伝の仕組みを考察する過程を確立することができた。これらのことから,生物学が専門分野に直接関わる学生だけではなく,社会科学系の学生をも含めて,遺伝学への関心と理解を深める実習としての有用性が示された。 長野県内の中学校における実践では,前年度に問題となった作業を見直すことによって,50分間という時間的制約の下でも,確実に実施するための準備と手順を確立できた。また,最終回のアンケート調査では,交配後の後代を観察した際に,全ての生徒が「驚いた」「予想外だった」というキーワードを記しており,この実習が「観察時の驚きを通じた遺伝現象への関心の誘導」という点で当初の目的を達成するものであることが示された。 これらの学校での実践と並行して,交配に必要な期間を1日でも短縮し,また,設備上の制約を緩和するために,これまで用いた親系統とは異なる組合せでの交配条件を検討するとともに,低温で高い増殖能を示す系統の選抜を試みた。しかし,現時点までで,望ましい結果は得られなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前年度に引き続き,中学校と大学で交配実験を実践することができ,本研究計画で目的とする実習プロトコルの完成に近づくことができた。ただし,中学校での通常規模の学級での実習は,新型コロナ第6波の拡大のため,直前に中止せざるを得なかった。また,高等学校での実習は新型コロナ禍と諸般の事情により,実施できなかった。そのため,本実習の普及という観点からは,目的を十分に達成できなかった。実習プロトコルを中心としてまとめ投稿した報文は,レビュアーからの指摘に対応中である。 室温(20℃前後)での培養と交配期間の短縮を目的とした系統の選抜では,想定していた結果を得ることができていない。無性生殖と有性生殖の切り替え等に関して,基礎生物学的に興味深い観察結果は得られたものの,本研究計画の目的という観点では,想定していた進展を達成することはできなかった。 以上の点から,現時点での進捗状況は「遅れている」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
研究期間を1年間延長した。2022年度には,中学校,高等学校,及び大学での実践を通じて,これまでに作成したプトロトコルをコアとし,学級の規模や不測の事態に対して柔軟なプロトコルの完成を目指す。今般の新型コロナ禍の収束を予見することは難しいものの,ウィズコロナの生活様式が社会的に受容されれば,中学校や高等学校におけるGIGAスクール構想の進展等とも相まって,インターネット上の集合知と「実物を自分の目で見て,自分の手で操作する」という自然科学の基本を融合させる形での実習が選択肢として準備されていることの重要性が認知されると考えている。 室温で短期間に交配実習を実施するための系統の選抜についても,2021年度に望んでいた結果は得られなかったものの,供試する系統の数を増やし,検討を続けたい。目的とする系統を得られさえすれば,学術的な側面が強くなるが,生育適温に関与する代謝系や閉子のう殻の成熟速度に関与する遺伝子の同定につなげることができる。もともとは環境中から分離された菌であり,標準とされている37℃での培養条件は,実験系統として選択された結果である可能性がある。したがって,このような変異体を得て,遺伝子を同定することによって,分子的に説明可能な実習体系を構築することができる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に予定していた,通常規模の学級での実習が新型コロナ第6波の拡大により,直前に中止になった。そのために準備していた費用として,翌年度使用額が生じた。これは2022年度に,当初の目的のために使用する予定である。
|