研究課題/領域番号 |
19K03393
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石田 正典 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 特定教授 (30124548)
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研究分担者 |
土橋 宏康 宮城教育大学, 教育学部, 特任教授 (00146119) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 代数幾何学 / トーリック多様体 / カスプ特異点 / コクセター群 |
研究実績の概要 |
本研究の主な対象であるトーリック型カスプ特異点つまり土橋カスプ特異点は,格子点の指定された実空間の開凸錐に離散線形群が格子点集合を保存するように作用していて,その開凸錐の分割で多面錐の集合である扇がいくつかの条件を満たす場合にトーリック多様体の理論を応用して構成される孤立特異点である.これは元々は複素解析的特異点であるが,研究代表者により任意の体上の完備局所環としても構成できることがわかっている.本研究ではカスプ特異点を中心に,様々なトーリック多様体の問題について考察している. 研究代表者の石田はこれまでと同様に Vinberg の線形コクセター群の例を与える直角鏡映群について研究を継続している.3 次元で立方体のアフィンコクセター群と立方体の自己同型群の合成群の特殊な部分群の分類と整理を行い,さらに高次元化が可能か考察中である.また 3 つの元で生成されるコクセター群について,これまでと同様にコクセター群から構成される曲面に自由に作用する部分群を見つける計算機プログラムについても,今年度は新たに高性能のパソコンを購入して種々の計算を行っている.またこれを他の場合に適用出来るように改良を試みている.条件をつけていくつかの部分群について実際に計算を行っている. またヒルベルトモジュラーカスプ特異点のものと同様なゼータ関数が,トーリック型カスプ特異点についても開凸錐に含まれる格子点の作用に関する代表元と原点について特性関数のべき乗の和を取って定義される.この和を扇に含まれる多面錐に限った関数を部分ゼータ関数として考えることが出来る.この部分ゼータ関数とカスプ特異点のゼータ関数には容易に得られる関係式はあったが,ゼータ関数については成り立つ特殊値の有理性などはまだ得られていない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者がこれまでに研究を行った 3 次元立方体の鏡映群 W であるが,これは 3 次元アフィン空間に作用するアフィン等長変換群の部分群となる.これは基本となる 1 つの立方体の 6 つの面についての鏡映変換で生成されるが,これ自体は鏡映面など多くの固定点を持つ.一方,立方体は位数 48 の自己同型群 G をもつので,これと鏡映群 W と合成することにより,W を指数 48 の部分群として含む離散群 GW を構成することが出来る.この GW の指数 48 の別の部分群をうまくとることにより 3 次元空間に自由に作用してしかも元の立方体が基本領域となるように出来る.計算機を使うことによりこのような群が同値類として 18 通りあることが得られている.また,これに対応するトーリック多様体とその離散群による商空間を考えると代数的トーラスを被覆空間とする代数多様体のトーリック因子への退化が実現できる.このことは興味深い結果である.引き続きこの考察と手法の高次元の場合への拡張や,双曲空間の凸多面体にも試してカスプ特異点の構成を行おうとしているが,現在のところ困難な問題が多く余り研究は進んでいない. また,ゼータ関数の定義を扇に含まれる多面錐に限った部分ゼータ関数を考えた場合,カスプ特異点のゼータ関数との関係式は得られたが部分ゼータ関数の特殊値の有理性など,多面錐的ローラン級数を用いる方法が有効か考察を行っているが成果は十分とは言えない.
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今後の研究の推進方策 |
多面錐の集合である有限扇はそれに含まれる錐の和集合が空間全体になるとき完備扇と言う.非特異錐だけからなる完備扇について,研究代表者は以前の研究で交点数やオイラー数および高次元のリーマンロッホの定理に関係したいくつかの等式を与えている.その証明の手段として多面錐的ローラン級数を用いた.この方法がカスプ特異点を定義する開凸錐に台が含まれる冪級数に限定する形で拡張できないか,またこれをゼータ関数の研究に応用できないか考察を行っている. 本研究のテーマであるトーリック型カスプ特異点は開凸錐とそれに作用する離散群から構成されるが,例の構成に双曲型などの無限コクセター群が非常に有用であり,すでに数多くの実例が見つかっている.特に存在が不明であった 5 次元カスプ特異点の構成が可能であることも土橋の研究で示された.これらの例についての解析は困難な部分がいろいろあるが,新たな手法を開拓しながらさらに研究を進めていきたい. なお,2020 年度まで分担者であった土橋は勤務先の宮城教育大学を退職したためこの年度で分担者を終了し 2021 年度からは分担者なしで研究を行っている.なお土橋の手法については石田がかなり会得している. コロナ禍のため出張は控えていたが,2023 年 3 月のは久しぶりに数学会年会に出席して代数学における最新の結果を直接聞くことが出来たので研究に役立てたい.また研究期間の 1 年延長が認められたので 2023 年度も数学会や関連する研究集会などが対面で行われればこれに参加して研究に役立てる予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
ウイルス感染症の拡大のため計画していた出張が十分出来なかったため余剰が生じた. 2023 年度は出張が可能であれば数学会や関連する研究集会などに参加して研究に役立てたい.
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