研究実績の概要 |
本研究ではテンソル圏を用いた新しい頂点作用素代数の拡大理論について追求する。前年度に引き続き,レベル28のA1型アフィン頂点作用素代数の例外型拡大を用いた中心電荷24の正則頂点作用素代数の構成,レベル9と12のA2型アフィン頂点作用素代数の例外型拡大を用いた中心電荷23の頂点作用素代数の構成,およびそれらの自己同型群の決定について研究を行った。当該年度では主にA1型の拡大を考察した。レベル28のA1型アフィン頂点作用素代数から得られる例外型拡大のうち,正則なものは,長さ24の二元重偶自己双対符号と対応があることが分かっていた。このような自己重偶双対符号は同型を除いて全部で9個あることが知られているが,対応する中心電荷24の正則頂点作用素代数の同型類には一組だけオーバーラップがあり,全部で8個となることを示した。いわゆる構成法Aと呼ばれる手法により二元線形符号から整格子を構成することができるが,これらの格子に対応して得られる格子頂点作用素代数に標準的な対合による軌道体構成を施した場合,一組だけ例外的な同型により頂点作用素代数としての同型類が一致してしまうことがその理由である。この同型はゴーレイ符号に対応する,A1型を24個直和したルート系を持つニーマイヤー格子からリーチ格子を構成する手法を他の二元符号に適用した場合に,一組だけ,得られる格子が同型となる場合があり,この例外的同型の頂点作用素代数における類似となっている。格子における操作と頂点作用素代数における操作で見られる平行性についてはすでにドラン達が考察しているが,我々の状況でこの平行性が再度現れる本質的な部分は,いわゆる頂点作用素代数のミラー拡大に包含されており,そうなることは証明できるが,その理由については現段階ではよく分かっていない。
|
今後の研究の推進方策 |
A1型の課題については,前々年度において正則頂点作用素代数への拡大を分類したが,前年度ではさらに二元符号および偶格子との対応を用いて具体的に構成・記述することができたので,今後は特にムーンシャイン頂点作用素代数が得られる場合について,その自己同型の構成が課題となる。フィッシャー群の作用を実現するために,格子の持つ対称性からは得られない,例外的な自己同型を構成することが鍵となるので,これを研究する。 A2型の課題については,多忙によりほとんど進展が得られなかったので,前年度と同じ指針でこれに当たる。具体的には,次数1の空間の次元を具体的に計算し,決定する。もしこれが自明であれば,未知の頂点作用素代数の構成に繋がる。一方,これが自明でなければ,リーチ格子に付随した頂点作用素代数に埋め込めることが期待される。また,A2型のW代数で生成される頂点作用素代数のクラスについて基礎研究を行い,ステルマッハーらの群論における先行研究結果との関連について,追求する。
|