本研究の主な目標は、楕円曲面のMordell-Weil格子の理論を高次元楕円多様体に拡張することであった.最終年度である令和5年度は,いくつかの研究集会でこれまでに得られた研究成果を整理したものを発表する機会があった.その場で多数の研究者と有益な議論をすることができ.これらの議論を通じて,3次元楕円多様体においてはWeierstrassモデルから相対極小モデルを得るプロセスの複雑さがMordell-Weil群に格子の構造を定義する問題を難しくしていることを改めて感じた. これまで,有理多様体である3次元楕円多様体でModell-Weil群の階数が大きい場合を中心に研究してきたが,その場合は特異ファイバーの構造が比較的簡単になるため,Modell-Weil群に格子の構造を定義することができ,いくつかの結果がえられた.このうち,底空間が射影平面を一般の位置にある9点でブローアップして得られるHalphen曲面であって階数6のMordell-Weil群を持つ3次元有理楕円多様体に格子の構造を定義し,それがE6型のルート格子と同型であることを示したのが主要な結果である.今年度はさらに,2つの楕円曲面のファイバー積として得られるCalabi-Yau楕円多様体であって,Mordell-Weil群の階数が9または10になる族について研究した.この場合の底空間は有理楕円曲面であって,特異ファイバーの様子は複雑で,切断の局所的高さを定義するのは困難であるが,部分的な結果は得られつつある. 本研究の主な対象は3次元以上のCalabi-Yau多様体であったが,今年度は並行して2次元のCalabi-Yau多様体であるK3曲面についても研究を行った.特に,塩田-猪瀬構造と類似の構造を持つ楕円K3曲面のMordell-Weil格子についていくつかの結果を得た.
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