研究課題/領域番号 |
19K03659
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
中村 真 中央大学, 理工学部, 教授 (00360610)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | AdS/CFT対応 / 非平衡定常状態 / 非線形電気伝導 |
研究実績の概要 |
本年度は非平衡定常状態を記述する有効理論の構築に向けた解析、および定常電流の流れる非平衡定常状態で発現する相転移現象についてゲージ・重力対応を用いた解析を行った。
非平衡相転移の研究では電流駆動型および電場駆動型の2種類の相転移についてD3-D7模型とよばれるゲージ・重力理論の模型を用いて解析した。電流駆動型の非平衡相転移の研究では電流・電場に対して垂直な磁場を印加した空間3次元の系を扱った。この系では、印加する磁場が十分大きい場合に、カイラル対称性が自発的に破れる性質を持っている。本研究での解析の結果、流れる電流がある臨界値よりも大きい場合については、カイラル対称性が回復する相転移が見られた。特に磁場、電流の値により、この相転移が1次相転移と2次相転移になる二つの場合が見出され、1次相転移が2次相転移に移り変わる点では3重臨界点が存在することが確認された。この3重臨界点を含めここで見られる相転移は非平衡定常状態において発現する相転移である。本研究ではさらに3重臨界点、2次相転移点における臨界指数の一部を計算し、平衡系のランダウ理論と同様の臨界指数が得られることがわかった。この研究成果はPhysical Review Letters誌への掲載が決定している。 また電場駆動型の非平衡相転移においても、新たな非平衡2次相転移を発見し、この相転移に伴う臨界指数の計算を行った。その結果、平衡系のランダウ理論に類似の臨界指数が得られることを確認することができた。 その他、非平衡定常状態における自由エネルギーに関する研究でも、自由エネルギー候補となる物理量の、パラメータ変化に対する凸性などを系統的に調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電流駆動型の非平衡相転移現象の解析では、カイラル対称性の破れに伴う電流駆動型の非平衡3重臨界点を発見することができた。これは当初は予期しなかった成果である。これにより、3重臨界点に付随する臨界現象の解析を行うなど、当初は予定しなかった解析も進めることができた。他の研究課題も同時に着実に進めることができており、おおむね順調に研究が進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き、非平衡相転移および非平衡定常状態の有効理論に関する研究を推進していく。非平衡定常状態における自由エネルギーの概念が成立するかどうか、その概念が成立する場合それはどのように計算されるのかは、非平衡物理学の基本的な問いである。この問いを明らかにするために、非平衡相転移における臨界現象、臨界指数をさらに系統的に調査し、その相転移現象を記述する有効理論として可能なモデルを絞り込んでいく。 一方で、ゲージ・重力対応においては重力側の理論のハミルトニアンが非平衡定常状態の自由エネルギーの候補として考えられる。変分原理の視点に立ったときに、このハミルトニアンの可積分性が成立するかどうかの確認や、パラメータに対する凸性などの基本的性質を調べていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在保有するコンピュータを用いて引き続き研究を行うことが可能であると判断されたために、パーソナルコンピュータの購入予定を延期したことから次年度使用額が生じた。次年度は必要となる学会・研究会参加のための旅費なども含めて総合的に勘案して研究費を使用していく予定である。
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