昨年度までに開発した時間分解磁気光学顕微鏡を用いて、パーマロイ微細構造中の磁気渦の運動の観察を行った。具体的には、シリコン基板上に金のコプラナー線路を作製し、その上にパーマロイで一辺の長さ数マイクロメートル、厚さ40 nmの正方形の構造を作製した。このコプラナー線路に交流電流を流すことにより数十MHz程度の高周波磁場を発生させ、それにより励起されるパーマロイ構造中の磁区(磁気渦)の運動を時間分解磁気光学顕微鏡を用いて観察した。 磁気渦の旋回運動は構造の大きさ・厚さ等によって決まる周波数で共鳴を示すことが知られているが、本研究ではこの共鳴現象により、磁気渦の旋回運動の半径が周波数に依存して変化する様子を時間分解磁気イメージングとして直接観測することに初めて成功した。これまでの時間分解イメージング技術では、光源の発光周期が固定されていたため周波数に依存した現象の観察をすることが困難であった。これに対して、本研究で開発した時間分解磁気光学顕微鏡は、光源としてパルス半導体レーザーを用いることにより、任意の周波数の現象を観測することが可能となった。本研究成果については、Japanese Journal of Applied Physics誌に論文が掲載された。 磁気渦の旋回運動を励起し時間分解磁気光学顕微鏡による観察が可能となったので、試料にさらにスピン起電力検出のための電極を付与しスピン起電力を検出できれば、本研究で目標とした磁区ダイナミクスとスピン起電力発生の同時観測可能になるが、残念ながら研究期間内にこれを達成することはできなかった。 研究期間全体としては、主に時間分解磁気光学顕微鏡による観測技術の高度化に取り組み、世界最高レベルの性能を有する装置の開発に成功し、上記の磁気渦の旋回運動における共鳴減少の直接観察につながった。
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