研究課題/領域番号 |
19K03820
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山崎 雅人 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 准教授 (00726599)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 位相的場の理論 / 超対称場の理論 |
研究実績の概要 |
昨年度までの研究では,3次元N=4の超対称性を持つ場の理論のうち,特にランクが0である理論から出発すれば,ユニタリーではない位相的場の理論が得られるという成果を発表し,その論文は本年度中にJHEPから出版されることとなった. この成果では,位相的場の理論が得られるという証拠が多数対象されたが,そもそもなぜ位相的場の理論が得られるかについては謎なところも多かった.一般に超対称場の理論から位相的場の理論が得られるときにはしばしば位相的なツイストという操作を経ることが多いので,我々の昨年度の成果を超対称場の理論のツイストの一種として理解できないかと問うことは自然である.特に,我々が議論したランク0の場の理論は4次元N=4の超対称性をもつ場の理論の境界に現れる理論であることが筆者らの2011年の論文によって示されているので,4次元N=4理論のツイスト,またその境界を考えることは自然である. 近年,4次元N=4理論の境界の境界(ドメインウォールの2次元ジャンクション)から無限次元の代数が現れることが示されており,2019年の筆者とWei Li氏の論文ではより広いクラスのジャンクションに対して対応する代数が同定された.これらの代数は箙ヤンギアンと呼ばれる新しい代数(筆者らにより定義された)の部分代数になっているので,箙ヤンギアンそのものについて研究することは本研究の文脈でも重要であると期待される. そこで本年度は箙ヤンギアンの研究を進め,その知られている限り最も一般的な表現を結晶の融解模型を用いて系統的に構成する方法を提唱し証明した.また箙ヤンギアンを三角化,また楕円化した新しい代数を構成し,その表現も議論した.これらの代数が超対称性の創発に関連するであろう可能性は,筆者以外の著者によっても最近指摘されており,今後さらなる発展が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は当初計画には含めていなかった箙ヤンギアンの研究について大きな進展があり,特に箙ヤンギアンの表現論については結晶の融解模型の立場から決定的な結果が得られた.またさらに箙ヤンギアンがどのような幾何から現れるのかについても,箙から定まる量子力学の立場から理解が進んだ.これらの成果を超対称性の創発に直接どう活かしたら良いのかはまだ必ずしも明らかではないが,既に状況証拠は上がっているほか,既に研究の問題意識は単に超対称性の創発という問題をさらに一般的に考え,より一般の対称性の創発を議論する方向へと拡大を見せている. また,昨年度の論文で議論した位相的場の理論そのものについても最新のホログラフィーの成果を取り入れた論文をカブリIPMUのポスドクらと共に発表した(JHEP2021, 44 (2021)).これらの論文ではチャーンサイモンズ理論はホログラフィーにおける境界理論の「アンサンブル平均」を取ったものとして現れるようになっている.つまり,ホログラフィーにおいてそのような位相的場の理論としての記述が創発する例を扱っているということもできるので,本研究の発展編として扱うのに相応しいものであった.数学的にも,ここでの「アンサンブル平均」はC.SiegelやA.Weilにより議論された興味深い積分公式(テータ関数を均質空間上の自然な計量で積分するとアイゼンシュタイン型の保形形式が現れる)として与えらられており,新たに数論との関係も本研究のトピックの一つとして浮上してきた.現在この発表論文の続きとしてより一般的な設定でホログラフィーのアンサンブル平均を議論しており,数学的にも新しい成果が得られているほか,ホログラフィーや時空の創発といったより根源的な創発現象にも研究対象を広げるに至っている. 以上の理由により,当初の計画以上に進展していると判定することは合理的であると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では,主として場の理論において超対称性が創発する例を構成し,そのメカニズムを調べることを目標にしていた.既に筆者らは超対称性が創発する例を多数(数え方によっては無限個)構成することに成功しており,対称性の創発という現象そのものが存在することについてはかなりの証拠が集まってきている.従って,今後の研究の大きな課題は,なぜ創発が起こるのかをより概念的に理解することである. 上に述べたように,その問いへのアプローチとして,これまでに位相場の理論に付随したモジュラーテンソル圏,また箙ヤンギアンなどの無限次元代数の研究が重要であることが既に理解されているので,今後の研究ではこれらの代数的構造の研究を進めたい.また,ホログラフィーの文脈では,数論的な精密な解析を武器として,ホログラフィーにおける対称性や時空の創発に関しても知見が得られてきており,これらの方針を今後もより徹底的に推し進めたい. 国際的な共同研究については,令和4年度以降世界的にも移動制限が緩和される傾向にあることを踏まえ,訪問による研究打ち合わせや研究参加を進めるなど,より活発な交流を推進するための努力を厭わない予定である.また,令和3年度以降の研究では,筆者の所属するカブリIPMUでの延べ5人以上の若手研究員(博士研究員および大学院生)が本研究に参加するに至っており,新たな大学院生のリクルートを進めるなど共同研究の範囲も拡大していきたい.また関連して,これまで共同研究をおこなってきた韓国のグループとの共同研究も推進したい.折しも共同研究者でる韓国のMyunbgo Shim氏が博士研究員として日本への渡航を希望しており,研究費の申請を進めるなどしており,既に氏と今後の研究方針についても議論を進めている.最終的に渡航のサポートが得られるかは未定であるが,その如何に関わらず研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では旅費に本年度経費の多くを計上するなどしていたが,令和3年度も依然として海外渡航が不可能ではないにせよ比較的困難な状況であり,また仮に渡航が可能であっても例えば本研究の共同研究者の在籍する韓国や中国では研究上の制約も多い.そこで研究費の一部を来年度以降に使用することとした. そもそも,当初計画では,研究費の多くをその前半に集中させる計画となっており,後半では研究費は比較的に少なくなる計画であった.つまり,当初計画を変更し,次年度以降に使用するとした場合でも,当初計画の前半と後半を入れ替えた研究費の分配になることになり,その使用にあたって何ら問題は生じないと考えている.
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